幼馴染の財閥令嬢が俺のことを無理やり婚約者に指名してきた

第32話 堂々告白

「…え？今先輩なんて？」

「だから輝鞘、ちょっと話があるからまた図書室に来てくれ」

「…え〜！なんで私の苗字知ってるの〜！え、え、沙藍は？沙藍呼びは？もう私下の名前で呼ばれないのっ！？」

「呼ばれない」

「え〜！むりむりむりむりむり〜！」

「そんなにふざけてる暇があるなら問題無いな」

「…先輩も、私のこと苗字で呼びたいからってわざわざ苗字を探し当てるなんて、やってることストーカーみたーい」

　下の名前で呼ばれないことへの当てつけなのか、俺のことをストーカーだという風に評してきたが、この際関係ない。

「別に探し当てたわけじゃない、たまたま聞いただけだ」

「あぁぁ〜！」

「うるさいな…だが今日はさっきも言ったが、それとは別に輝鞘に話したいことがあるんだ、大事なことだ」

「……」

「輝鞘？」

「沙藍って呼んでくれるまで反応してあげないもん」

　この…芯の部分にはアイドルと呼ばれるに相応しいだけの精神性はあるんだろうがそれにしたって普段は子供をそのまま大きくしたみたいな感じだな。

　ここで意地になる理由も特にないため、俺は呼び方を戻す。

「…沙藍」

「はいっ！」

　分かりやすいほど元気になったな。

「今日、放課後暇─────」

「暇！えっ、なんですか？もしかして私のこと遊びに誘ってくれて…！？え、漫画喫茶とか！？個室だし…！アリ！」

「そのもしかしてではあるがアイドルと個室になんて行ったら普通にスキャンダルになってどんな罵詈雑言が飛んでくるか…」

「大丈夫大丈夫〜それよりほんとに私とお出かけ！？」

「あぁ、近々旅行にも行くなし、その予行演習も兼ねてな」

「予行演習…！？え、私今日いきなりそんなことになるなんて思ってなくて準備とか全くできてないよ〜！どうしよ〜！とりあえず薬局？」

「絶対に薬局なんかには行かない」

「え、無しで…！？」

　本当にアイドルなのか…発想が酷いな。

「仮にもアイドルなんだったらその下賤すぎる妄想をやめてくれ…普通に出掛けに行くだけだ」

「そっか〜…まぁいいや、それで先輩はどこ行きたいの？」

「あぁ、それは俺が決めるんじゃないんだ」

「え、私が決めて良いってこと？」

「そうでもない…まぁ放課後を楽しみにしててくれ」

「よく分かんないけどはーい」

　俺は約束通り輝鞘との約束を取り付けた。

　そして放課後校門前。

「それで…誰〜？」

「あぁ、俺の後輩…沙藍から見ると同級生の快（かい）って言うんだ」

「…よろしくお願いします」

　快は緊張しているようだ。

　快とは、以前俺に面を貸せと言ってきた男子生徒のことだ。

　あれから輝鞘と快が仲良くなるために少しだけ計画を立て、今に至っている。

　計画としては、まず3人で一緒に定番であるショッピングモールに向かう。

　そして途中までは3人で服を見たり、流れに任せてゲームをしたりもするが、そこで俺はトイレだと言ってその場を抜け、輝鞘と快を2人きりにして、仲良くするという作戦だ。

「…うん、よろしくね！でも快くんはあんまり知らないと思う私と一緒で大丈夫ー？」

「うっす、大丈夫っす」

　同級生には敬語なんて使わないであろう快だが、おそらく輝鞘のことは神格化しているから敬語を使っているんだろう。

　俺は美弦と仲が良いことや、輝鞘とも仲が良いことから快から少し尊敬の目を抱かれている。

　本当に荷が重いからやめてほしい…が、その恋が実ることは祈っている。

「あー、ここかぁ、私ここで前番組撮ったなー」

「そうなのか！？」

　流石としか言いようが無い。

「そのテレビ見たっすよ、確か水…」

「…どうした？」

「いや…なんでもないっす」

　確か水…なんだ、そこまで言われると気になる。

「あー！そうそう！水着の着比べだー！ちょうど一年前の今くらいだった気がするな〜、ああいうのって旬に合わせるためにちょっと前とかに録るから5月の終わりとかに水着着せられてちょっと季節違い感じたな〜、懐かしい〜」

「……」

　なるほど水着か。

　確かにそれなら口を紡ぐのもわかるが…それにしても本当に見た目とは相反して初々しいな。

　その後俺たちは多種多様なお店を周り…そろそろかというところで俺が切り出す。

「悪い、ちょっとトイレ行ってくるから2人で待っててくれるか？」

「うっす、了解っす」

「はーい」

　俺はトイレに行くと嘘を言い、2人のことを2人きりにすることに成功した。

　柱の前に居る2人の俺は反対側に移動する。

　これにより2人の会話を聞くことが可能だ。

　2人はどんな会話をするんだろうか。

「ちょっと聞いてもいいー？」

「なんすか？」

「先輩とはどんな関係なのー？」

「良く相談とか乗ってもらってるんすよ」

「へぇ〜、最近関わり始めた感じー？」

「そっすね」

　嘘は言っていないが本当のことも言っていないな。

　別に俺たちはこの輝鞘以外のことに関しては相談室みたいなことはしていないし特に関わりもない。

「今日はなんで来てくれたのー？私のことあんまり知らないと思うのに…気まずくない？」

　快はこれに対してどう返答するのだろうか。

　全く想像ができないな。

「それは…輝鞘さんのことが好きだから」

　…え？

「輝鞘さん、お願いします、俺と付き合ってください！」

　力強く、文字通り告白する。

　…はぁぁぁぁぁ！？