第24話 アプローチ願望

 体験学習まであと3日…

 私はここ最近ずっと思っていることがあるんですの。

 それは…


「そろそろ白斗さんからも何かされてみたい、ですわ…!」


 世間でいうドラマなるものや少女漫画なるものでは大抵男性側から女性側を喜ばせアプローチしようと四苦八苦しているのが見て取れますが、今のところ私と白斗さんは私が10割押し切っているような状態ですわ、ですが私だって乙女、私の方が白斗さんに少なくとも10年は前に先に恋に落ちてしまった側…必死にアプローチしないといけないのはわかりますわ。

 ですが…


「そろそろ手を繋ぐぐらいのアプローチ1つくらいあっても良いんじゃないですの!?」


 どうして白斗さんは何もしてこないんですの…私は白斗さんのことをこんなにも求めているのに。

 …こうなったら。


「白斗さんにどうにかして私にアプローチしていただく作戦決行ですわ!」


 私は睡眠時間を3時間まで狭めることにより、白斗さんからどうすればアプローチしていただけるかの策を練りましたわ。

 そして…


「おはようございますですわ」


「あぁ、おはよう」


 3時間しか眠れていませんが、私は花嫁修行を済ませており、結婚して白斗さんの子を産むとなると、眠る間も惜しまず赤子のお世話をする必要があるため、私は1週間に1度8時間睡眠を取ることができれば、それ以外は1時間の睡眠でも体が機能するように修行をしていますため、白斗さんにお見苦しい姿をお見せすることはありませんわ。


「白斗さん!見てくださいまし!新しいお靴を新調致しましたわ!」


「おぉ…似合ってるな」


 白斗さんは無意識に私のことを口説いてきましたわ…ですがこれも伏線なんですの。


「ありがとうございますですわ、ですがまだ少し履き慣れていな─────あ〜ですわー」


 私はあえてその場で石に躓いて転びそうになってみせますわ。

 優しい白斗さんはきっと私のことを転ばないように手を引いてくれる…


「大丈夫か!?」


 白斗さんは予想通り私の手を引いてくださいました。

 ですが、これはアプローチではなく誰にでもする、白斗さんの優しさ。

 私が求めているのはこんなものではないんですの、ここからさらに。


「えっ…」


 右半身に大きな隙を作り、無意識的に白斗さんが私の後ろに手を回し抱きしめたくなるように誘導。

 そして更に物欲しそうな女の顔を演技でする。


「は…え?いや…ん?」


 白斗さんは突然のことに状況が飲み込めていないようですが、徐々に徐々にこのロマンチックな雰囲気に呑まれつつあるようです。

 多少強引ですがこんなにも簡単に雰囲気というものは作れますわ。

 あとは白斗さんが腕を回してさえくれれば─────


「そこどいて〜、危ないよ〜」


「あっ」


 白斗さんと私は宅急便と思われるトラックが向かってきたためすぐに場所を移し、体勢も普通に歩く時に戻ってしまいましたわ。

 …あともう少しでしたのに!

 あの宅急便会社…覚えましたわよ。

 でしたら…


「白斗さん、本日は少し肌寒くありませんの?」


「そうか…?確かにいつもより風はあるが5月の今の時期だと涼しくてちょうどいいぐらいだと思ってた」


「男性と女性とでは筋肉量が違うので寒さへの順応性が違うんですのよ」


「なるほど…」


 もちろん5月に特段寒いなんてことはありませんわ。

 ですが私は手に息を当てたりして露骨に寒がっている素振りを白斗さんにお見せします。


「そ、そんなに寒いか?」


「いえ、お気になさらず、手袋を持っていない私が悪かったんですわ」


「……」


 優しい白斗さんならここで「じゃあ…俺の手で良ければ」と言ってくださることが、私の幾度と重ねたシミュレーションで生み出された結果ですわ。


「なら、たまたま持ってきてた日焼け対策でできるだけ通気性の良いこの季節には丁度いい手袋があるから、これ使ってくれ」


「ありがとうございますですわ」


 なんなんですのそのたまたまは…!今までそんなこと一度もなかったじゃありませんの!どうしてよりもよってこの時に…!?


「むぅ…」


 まずいですわ、このままいくとずるずる尾を引いて最終的には私の方から我慢できなくなりいつも通り私がアプローチをかけるだけに終着してしまいそうですわ。


「どうしたんだ?今日は少し様子が変だ」


 私のおかしな挙動の連続に違和感を覚えたのか、白斗さんが私のことを気遣ってくださいましたわ。


「いえ…その…」


 私は思っていることを、そのまま口にしてみることにしました。


「その…た、たまには白斗さんからアプローチをしていただけたらいいな、なんて思ったり思わなかったりして七転八倒しちてんばっとう…とまではいかないまでも、少し悩んでいるんですの」


「アプローチ…?」


「具体的に言うと…だ、抱きしめたり、ですわ…」


「抱きし…!?」


 白斗さんは驚いていらっしゃる様子でしたが、思っているよりは落ち着いている様子…


「白斗さん?」


「…そういうのは、俺が答えを出してからだ、近々…返答する」


「…はい、ですわ!」


 白斗さんの心境に何か変化があったようですわ。

 …本当に、できるだけ早くしていただける助かりますわ。

 でないと…もう自分を抑えられる気が致しませんので。

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