第14話 色仕掛け
今日は本来一緒に出かけることになっていたが急遽美弦がやっぱり俺の家が良いと言い出したため美弦が俺の家に来ることになっている。
おそらく体調でも悪かったんだろう。
俺としてもせっかく出かけるなら楽しく出かけたいため、全く嫌な感情なく美弦と遊ぶことにする。
「…お」
インターホンが鳴ったため出ると、神妙な面持ちをした美弦が立っていた。
「どうした?」
「え、何がですの?」
「なんか体調が悪そうだったから」
「あ…!それは本当にそんなことはございませんの、お気遣いとても嬉しいでございますわ!」
どうやら体調は大丈夫らしい。
だが完全に否定せずそれは、と言っているところにやはり何か思うところがあるんだろうことは予想が付いた。
口には出さないが。
「よし」
俺と美弦は俺の部屋に着くと、椅子に腰掛けた。
すると美弦が奇怪な行動に出た。
「は、はぁ、ですわ〜、ほ、本日は少し暑いようでございますわね」
胸元をパタパタしながらそんなことを言う。
「そうか…?」
美弦は暑いと言っているが俺から言わせるといつもとあまり変わらない…が感じ方は人によって違うため否定することはできない。
「水でも持ってこようか?」
「そ、そうじゃないですわよ!」
「え…?」
「あ、いえ…やはりお願いいたしますわ」
「あぁ」
俺は下の階に降りて冷蔵庫から水を取り出し、それをコップに注ぐ。
「…なんだ?」
いつもちょっとズレている美弦だが今日はズレているとかではなく別の何かに違和感を覚える。
そんなことを思いながら水を注いだコップを持ち、俺の部屋に戻る。
「美弦、水を持ってきた」
「あ、ありがとうございますですわ!」
美弦は俺から水を受け取ると、それを少量飲んでみせた。
「…白斗さん、先日の件でお話があるんですの」
「先日…?」
「あの手紙のことについてですわ」
あぁ、結局中の内容がイマイチどんなものかわからなかったあの手紙の話か。
それについて何か教えてくれるんだろうか。
「その…仮に、ですわよ?あの手紙はハート柄のシートが貼ってありましたので、もしかすると恋文という可能性も少しはあるかもしれませんの」
「それはない」
俺は断言する。
「…何故言い切れるんですの?」
「簡単だ、俺はあの子と話したこともない、そんな状態で恋文なんて送られるわけないだろ?少女漫画じゃあるまいし」
「…はぁ、ですわ」
美弦は何故か溜息を吐く。
最近の美弦の溜息を吐くタイミングが少しわからなくなってきたが、そんなことは些細なことだろう。
「では、もし本当に恋文が書かれていたとしたら、白斗さんはそれを受け取ってどういたしましたの?」
「そうだな…」
人生において告白なんて一度もされたことがないからあまり鮮明なイメージはつかないが。
「多分断ってると思う」
「っ…!そうなんですのっ!?」
そもそも全く知らない人からいきなりそんなものをもらって承諾できるほど俺は軽い人間にはなりたくないと思っているし、それに…
「まだ美弦との婚約問題も解決してないのに、そんな中途半端な状態でそんな大事なものを受け取れるわけがないだろ?」
「そ、そうですわよね…!安心しましたわ!」
美弦は勢いよく立ち上がった。
すると何かが美弦のポケットから落ちた。
「ん、何か落ちたな」
俺はそれを拾う。
『色仕掛けの仕方』
「……は?」
…俺の脳は理解が追いついていなかった。
「どうしたんです───ち、違いますわ!違うんですの!や、やめてくださいまし!本当に違うんですの!!」
まだ何も言ってないのに否定から入るその感じは明らかに確信犯、正しくは故意犯というものだろう。
「…色々と考えた結果少し不安になって、いっそのことせっかく私が女性という性に生まれたのですからその力を使って白斗さんを誘惑して不安を解消しようだなんて思っていませんわよ!」
今この瞬間自分で全てを暴露してくれた気がする。
「そう…か」
「はいですわ!」
…不安、か。
美弦の中ではもう俺のことが欠け変えの無い存在になっているのだろうか。
もちろん俺から見た美弦だってそうだが…これが恋愛感情に当たるのかどうか、それを俺にはまだわからない。
「白斗さん、この本に書いてありましたことなのですが、殿方は女性の肌を見て興奮というものをしてそれを恋愛感情と誤解することがあるそうですの、試してみたくありませんの?」
「試したいわけないだろそんなこと!」
「なんですのっ!せっかく白斗さんがもしかするとどこかへ行ってしまうかもしれないという私の不安も少し解消されましたのにっ!」
「なんで俺がどこかに行くことになってるんだ!俺はどこにも行かない、というか不安があるって認めてるじゃないか!」
「良いですわそんなこと!それよ───今なんて言いましたの?」
「…え?」
「今!どこにも行かないって言いましたの!?それって私の婚約を受け取ってくださったと解釈して─────」
「良いわけないだろ!」
俺は荒ぶる美弦のことを精一杯宥めた。
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