第15話 嵐の前の嵐
明日からゴールデンウィーク、嵐の前の日である。
ようやく明日から羽を休めることができる…そんな今日この頃、俺の教室前廊下では異様な光景が広がっていた。
「天霧さん、俺と付き合ってください!」
「無理ですわ」
「…なんだこれは」
男子生徒が美弦に告白したが、美弦に即座に振られてしまう。
こんな容姿端麗な美弦と幼稚園児の時から一緒に居るんだ、ここまでなら何度か目にしたことはある。
だが…
「好きです、付き合ってください!」
「無理ですわ」
「ぼ、僕と付き合ってください!」
「無理ですわ」
大量に行列ができている。
こんな光景は初めて見た、新手のパンデミックかと一瞬疑ってしまった。
周りから小さく声が聞こえてる。
「うわ、なんだよこの行列…」
「ほら、明日からゴールデンウィークだからそれを狙って想いを秘めてた人たちがみんな天霧さんに告白してるんだって」
「へぇ」
そんなことが起きてたのか…こんなのもう社会現象だろ。
「天霧ちゃん、俺と付き合って─────」
明らかにチャラそうな人が美弦の顔に手を伸ばそうとしたが、美弦が即座にそれを手で払った。
「汚らしい手で私に触らないでいただきたいですわ、私に触れて良いのはこの世でたった1人だと決まっていますわ」
「へぇ、誰?」
「…不快ですわ」
「不快だったらなんだっての?」
なんだかだんだん危ない空気になってきた。
「財閥だとかなんだか知らないけどさ、学校の中だったらそんなことは関係な─────あ?」
校内中に特定の1人を名指しして職員室に呼び出された。
「…俺の名前?」
「行ってみると良いですわ、おそらく退学が告げられるだけだと思いますが」
どうやら美弦が今の会話の間に何かをしたらしい。
「ふざけ─────」
とうとうチャラそうな男子生徒は美弦に乱暴しようとしたが、美弦はその技術力でその攻撃を受け流し、男子生徒を地面に叩きつけた。
これはお見逸れしたと言わざるを得ないだろう。
周りからは拍手が送られた。
…この男子生徒は第一印象から分かる通り、相当嫌われていたんだろうな。
「はぁ、もう疲れましたわ…皆さんとお付き合いする気はございませんので、帰ってくださいまし」
並んでいる男子生徒や、周りの野次馬の人たちはしょぼしょぼと帰って行った。
「…あっ!白斗さん!」
美弦が俺に気づいたらしく、俺の方に駆け寄ってきた。
「もしかして今の見てましたの?」
「あぁ」
「ち、違いますわよ!私は他の方とお付き合いなんてする気なんてございませんの!本当ですわよ!?」
「あぁ、それも見てたから気にしてない…ん?」
なんで俺は今の発言を聞いて少し安心してしまっているんだろうか。
…今考えることでも無いか。
「白斗さん?」
「…ん?」
「どうかいたしましたの?考え事をしているように見えましたわ…」
「悪い、大丈夫だ」
「いえ、謝ることではありませんわ」
美弦は俺の様子が少しおかしかったことに気づいたらしいが、特に深く追及してくるようなことはしない。
「困りましたわ…どうしてあのような下賤な方に触られなければならないのか、私に触れても良いのは白斗さんだけに決まっていますのに」
「下賤って…俺だって美弦に比べれば全然豊かな暮らしじゃないぞ?」
「そのような話ではございませんわ!」
美弦は即座に否定する。
「白斗さんは生まれがどうとか育ちがどうとかそのような話ではなく、素晴らしいんですわ!ご自身では気付かれないものなのでしょうか…」
「申し訳ないが全くわからない」
「そうなんですのね…光は自分が光ですので常に周りが光っていて光以外の物の基準がわからなくなってしまうんですのね…」
とにかく褒められている、という風に解釈しておこう。
「あ、そうですわ!白斗さんっ!明日からゴールデンウィークですわよ!」
「あぁ、そうだな」
ゴールデンウィークはどこに出かけるか話もいつもより盛大に話さないとな。
それにしても…美弦が臨場感があるからと前日が良いと言って聞かなかったが本当にこんな前日から話し合いなんて悠長なことで大丈夫なんだろうか。
「白斗さんはどこに行きたいんですの?」
「俺は…遊園地とかどうだ?あんまり行ったことないだろ?」
「幼稚園児の時に幼稚園の
「そうか、なら遊園地にするか?」
「ちょっと待ってくださいまし!」
美弦からストップの声が上がる。
何か不満点でもあったんだろうか。
「どうした?」
「遊園地なんていつでも行けますわよ!それよりゴールデンウィーク、この連日休日をもっと有効的に使いたいですわ!」
「有効的に…って?」
「もちろん旅行ですわ〜!」
「は!?」
旅行…!?
確かに前にそんなこと言ってたような気がするが…あれは冗談、なわけがないか。
一見冗談だと思えるようなことでも美弦ならできてしまったってなんら不思議じゃない。
「旅行って…どこに?」
「海外…が良かったのですが、白斗さんを慣れない環境に置くのもどうかと思い、考えを改めて国内ということにしておきますわ」
そこだけはどうやら考えを改めてくれたらしい。
「ですのでっ!本日は一緒にどこに行くか決めましょうですわ!」
「あぁ、わかった」
その後美弦と俺は図書室に行き、さまざまな観光地を調べて行きたいところをまとめて行った。
その間、少しだけ視線を感じた気がする。
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