第13話 手紙
今はあの泊まりの翌日、一度神崎さんに俺の家に送ってもらってから美弦と一緒に学校に向かっている最中だ。
「良くお眠りになられてましたね、私の膝の上が心地良かったようで何よりです」
「や、やめてくれ…!」
起きた時にはもうすでに数時間が経過しており、俺は美弦の膝の上で本当に眠ってしまったらしい。
昨日は疲れていたとはいえ本当にあのまま寝てしまうとは…これが美弦じゃなかったらマナー違反だったのかもしれない。
「でもお可愛かったですわよ?」
「うるさい!」
「そんなにお照れにならなくてもいいですのに、お寝言で私と婚約したいとも仰っていましたわよ?」
「俺が!?」
「冗談ですわ」
朝から心臓に悪い冗談で心肺機能を上げようとしてくれるその優しさには本当に痛み入るな。
…悪すぎることだけが少し難点だが。
「本日は教室授業なので、ずっと白斗さんと居ることができますわね」
「あぁ、そうだな」
俺たちはそんなことを喋りながら学校に向かった。
時は早く、昼休み。
昼休みはゴミ捨て当番の人がゴミを捨てる決まりになっていて、今日は俺がゴミ捨て当番だ。
「白斗さんにゴミを捨てさせるこの制度は今すぐ変更すべきだと思いますわ…」
「変な訴えとか起こすなよ?大人しく待っててくれ」
「はいですわ…」
美弦に落ち着いて待っていてもらう。
俺は階段を降り校舎裏に向かった。
「…これでよし」
俺はゴミをゴミ箱に入れ終えると、その校舎裏を後にしようとするが、そこでどこかで見覚えのある生徒と鉢合わせる。
「あ、先輩…!来てくれたんだ…!」
「君は…」
そうだ、確か俺に図書室の返却をいきなり頼んで来た子だ。
あの時と髪型が変わってツインテールになっていたため一瞬気づかなかったがこの派手な外見、間違いない。
…それよりも。
「来てくれたってどういうことだ?」
下級生なため敬語を使うと逆に不自然になると思い普通にタメ口で話す、嫌そうなら敬語で話すがそんな素振りは無い。
「え、私が先週渡した表に文章と電話番号、裏にここに来て欲しいって書いた手紙を見て来てくれたんじゃ無いんですか…?」
「手紙って…本の返却のことか?あれならちょっと俺の手が空いてなかったから友達に渡した、しっかりと返してくれたそうだから安心してくれ」
「本…?何の話して…?」
どうやらお互い話が食い違っているらしい。
これは整理の必要がありそうだ。
「まず大前提だが、君はあの時俺にいきなり手紙を渡してきた人で間違い無いよな?」
そもそも人違いだったなんて笑い話にもならないからな。
「はい、それは間違いない…です」
俺視点で言っても髪型が変わっただけでそれ以外はあの時の人と全く一緒だ、強いて言うならツインテールにしたおかげで顔の輪郭がはっきりわかって顔が異常なほどに整っていると言うことがわかったぐらいだ。
「次だ、あの時俺に渡した手紙は図書室の返却関連の手紙だよな?」
「それわけわかんないです、なんですかそれ?」
どうやらここが食い違ったらしい。
「中身見てないんですかぁ…?」
「…見てない、実を言うとあの時トイレに行きたくて、でも接点の無い俺に何か要求してくるなら図書室の返却とかその段階のことかと思って友達に代わってもらったんだ」
「なんで渡しちゃうの!?」
素で驚いているのか一瞬敬語を忘れているようだ。
「いや…悪かった、急いでたみたいだからできるだけ早くしたほうがいいのかと思って俺じゃ無理だったから信頼できる友達に託したんだ」
「なんか先輩の人間性がわかっちゃったなぁ、優しいけど空回りしちゃってる〜」
独り言のように呟く。
「そのお友達って誰なんですか〜?」
「美弦…天霧美弦だ」
「っ…それっていつも先輩と一緒に居る?」
「え、何で知ってるんだ?」
「あっ…結構有名ですよ〜?あの天霧財閥の一人娘と先輩がお出かけしてるって」
「そうなのか!?」
せいぜい学校内で一緒に居るぐらいの噂しか知らなかった…もう出かけてることまでみんな知ってるのか。
…そんな噂、立っても大丈夫なんだろうか。
「…よかったらなんですけど、天霧先輩に会わせてもらえたりしない?」
距離感が少し近づいてきたせいか敬語とタメ口がごちゃごちゃになってきたな…別にどっちでもいいが。
「あぁ、わかった」
特に断る理由もないため俺はこの子と一緒にクラスに居るはずの美弦のところに向かった。
「白斗さん!お帰りなさいですわ!白斗さんに見合わないような場所でどこか気分を害されたりはしなかっ───誰ですの?」
美弦はいつものように俺を労おうとするが、瞬時に俺の隣に居るのは誰なのかということを指摘してくる。
「ほら、前に図書室関連の手紙を渡されたって話があっただろ?その時俺に手紙を渡した人とたまたまあって色々と間違いがあったみたいだから美弦と照らし合わせておこうと思って」
「…その方があの手紙を白斗さんに渡した方ですの?」
「そうだ」
「……」
少し美弦の面持ちが変わった。
「それで、その方が私に何の用ですの?」
「あぁ、確認したいことがあって、あの手紙の内容って図書室に本を返却することで合ってたか?」
俺は美弦から事後報告を受けていないためそれも含め確認する。
「あっ…それが、実は中身を見ておりませんの」
「え…?」
「よく見るとハート柄のシールが貼ってありましたので、もしかすると送り主を間違えたのではないかと思い、プライバシーを厳守するために中身を見ませんでしたの」
「そうなのか」
ハート…確かに全体ピンク色で言われてみれば少しデコられていたような気がしなくもない、この子の見た目が派手で見落としてしまっていた。
「はぁ!?間違えてないし!」
甲高い声で後輩の女の子は叫ぶ。
「そうなんですのね…それは申し訳ないですわ」
「…もう〜!」
後輩の女の子は教室から走り去って行った。
…これからはちゃんと受け取ったものの中身を見ることにしよう、俺の反省点だな。
それにしても…
「あの手紙の内容はなんだったんだろうな」
もし今度会うことがあったらあの後輩の子に手紙の内容を聞いてみることにしよう。
「……」
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