第13話 美弦の部屋

 俺が大人しく美弦の部屋で美弦のことを待っていると、心地よい匂いとともに美弦が部屋に入ってきた。


「はっ…白斗さんが部屋に居るなんて、昨日まではただの就寝部屋でしたが白斗さんが居るだけでこうも世界最高峰の部屋になるとは…」


 昨日まではただの就寝部屋だったことに驚きを隠せない。

 ただの就寝場所にこんな豪華な物を置くとは…合計で軽く数百万円ぐらいは超えそうなものだ。


「…あっ!白斗さん!そのお洋服!着てくださったんですのねっ!嬉しいですわっ!」


「あそこにはこれしか着替えがなかっただろ?」


「そうですが…私が用意したものを着てくださるというのがやはりどうしよも無いほど嬉しくて…!」


 美弦は顔を笑顔にしてジャンプしたりして嬉しそうにしている。

 服装の話をするのであれば美弦もパジャマという俺の前では物心ついてからは着た事がなかったものを着ていて少し新鮮に感じる。


「白斗さんはいつも何時頃に寝ていますの?」


「遅くても夜の0時には寝るようにしてる」


「そうなんですのねっ!なら本日もそう致しましょう」


 今はまだ20時、これから後4時間もこの部屋で美弦と2人きりなのか。

 2人きりは慣れっこだが美弦というのがどうにも緊張してしまう。


「そうですわっ!白斗さん、一緒にお泊まりの普通というものを調べましょう!」


「泊まりの普通…?」


「はいですわっ!これも知見を広げる一環ですわよ!」


 それもそうかもしれない。

 泊まりについては俺も全く知識がないため、これからこの泊まりの時間を美弦とどうするかを考えるのにも良いかもな。


「調べますわねっ!」


 美弦は爆速でノートパソコンに文字を打ち込んでいる。

 …普段俺の前ではパソコンなんて触ってる素振りないのに、裏では結構パソコンを触ってたりするんだろうか。


「出ましたわ!」


 どうやら検索結果が出たらしく、俺もそれに目を通した。


『男女のお泊まり 夜のお決まり』


 なんだかものすごく誤解を生みそうなものが一番上に出てきた。


「美弦…?これは何か違うくないか?」


「そうなんですの?私達も今夜ですし、ぴったりじゃありませんの?」


「そう…だが」


 どうにも嫌な予感がする。

 俺の考えすぎなんだろうか。


「押しますわっ!」


 美弦はそのサイトをクリックした。

 そのサイトの見出しはこうだ。


『夜、豹変するカレの対処法』


 俺はその時点で色々と察してしまった。


「美弦、やっぱりこのサイトは見るのをやめよう、もっとこれから行きたいところとか、そういうのを調べよう」


「え、何故ですの…?」


「これは、その…多分恋人同士が見るサイトだ」


 かなりオブラートに包んだ。

 美弦とそういう類の話は一度もした事がないし、これからも結婚…とかをするなら考えものだが少なくとも積極的にそんな話をするつもりは無い。


「恋人同士ですの!?でしたら尚更見ないとですわ!」


「あっ、おい…!」


 美弦はさらに画面をスクロールした。

 そこに書かれている文章は…


『家の中だけで見せるカレの甘えん坊、眠くなってきたところが狙いどころです、そこで一気に甘やかしてカレをあなたの虜にしましょう』


「あ、甘えん坊…ですのっ!?」


 美弦が画面と俺のことを交互に見ている。

 …俺の考えが汚れていたことは認めざるを得ないがあの書き方はどう考えても悪意があるだろう。


「は、白斗さんも、私に甘えたいん…ですの?」


「そんなわけないだろ!」


 まずい、変なものを美弦に読ませてしまった。

 あのサイトをクリックする手前でなんとしても止めるべきだった。


「確かに今まで私が甘えさせていただいてばかりでしたし…たまには私に甘えてくださってもよろしいんですのよ?」


「だから俺は別に甘えたいわけじゃない」


「頑固なのは相変わらずですわね…なら奥の手ですわ」


 美弦は着ているパジャマのボタンを外していく。


「見てくださいまし!殿方はこういうものが好きだと将来白斗さんを喜ばせて差し上げるために勉強しましたの!パジャマ下着姿ですわっ!甘えてくださっても良いんですわよっ!…少々恥ずかしいですわね」


 美弦は顔だけを横に背けた。

 …どう考えても恥ずかしいのは俺の方だしパジャマ下着姿なんてフレーズ申し訳ないが聞いた事がない。


「わかった…わかったからやめてくれ、そんなことしないでくれ」


 俺は目を細めできるだけ見えないようにしつつ美弦のパジャマのボタンを閉じた。


「本当ですのっ!では!甘えてくださいまし!」


「……」


 甘えてくれと言われて実践するのはかなり難しい、というか純粋に恥ずかしい。

 …甘えるって何をするんだろうか。


「…水が欲しいな」


「はいですわっ!」


 美弦はすぐに俺のコップに水を注いだ。

 …絶対に甘えるというのはこうでないことだけは確かだ。


「もっと私にだけしかできないこととがありませんの…?」


「美弦にだけ…?」


「はいですわ、例えば膝枕とか…」


「膝枕か…」


 膝枕は本当に恋人と幼馴染のデッドラインかもしれないな。

 幼馴染でもギリギリのギリギリで膝枕はまだできるんじゃないだろうか。


「…わかった、なら膝枕をしてくれ」


「〜!はいですわ〜!」


 美弦は心底嬉しそうにしてベッドで正座し、その膝の上に頭の乗っけてくるように合図をしてきた。

 俺はその合図通り、ベッドの上に乗り、少し申し訳ないが足を伸ばして美弦の膝の上に頭を置かせてもらう。

 ベッドは枕が2つあるだけあってダブルス、ヘッドもかなり広く、寝心地も良い。


「…本当に眠ってしまいそうだ」


 今日は色々あって疲れてるしな…今になって往復で2時間ほど車に乗ったのが響いてきたな。


「眠ってくださってもいいんですのよ」


 心なしか美弦の声がいつもより優しい気がする。

 …本当に、このまま眠ってしまいそ─────


「……」


「…白斗さん、お眠りになられましたの?」


「……」


「…可愛すぎですわ…!なんなんですのこの白斗さん!目を閉じて呼吸してますわよ!?目を閉じて呼吸してるだけでこんなに魅力のある生物他に居ませんわよ!あっ、白斗さんが寝ていらっしゃるなら静かにしないとですわ…あ、お写真を記念に撮りたいですわね、でも勝手に撮ったことがバレたら白斗さんにプライバシーがなってないと怒られてしまうかもしれませんわね…あぁ…!とにかく可愛いすぎですわ〜!」


 俺は夢の中でも美弦とどこかに出かけていた。

 それがどこなのかは覚えていない。

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