第4話 初カラオケ
授業終わりの放課後、校門から出たところ。
「白斗さん!早速お出かけいたしますわよ!」
「さっきの今日でもう出かけるのか!?」
出かけるのは休日を主体にすると思っていたため少し驚いてしまった。
でも考えてみれば学校終わりの放課後に友達と出かけるなんていうのは高校生なら普通だし、美弦の知見を広める意味も込めて悪くないかもしれないな。
「もちろんですわ!」
…知見、か。
朝俺がゲームセンターとカラオケの単語を出した時まるで知らなそうだったな。
「なら、カラオケに行ってみないか?」
「からおけ…朝言ってたところですわねっ!」
「覚えてたのか」
自分が知らないものでもそんなに覚えられるのは流石と言ったところだろうか。
「白斗さんの発言なら一言一句全て記憶に残していますわ!」
「あぁ…そうか」
聞かなくていいことまで聞いてしまったような気がする。
「私気になることがございまして…そのからおけというのはなんですの?」
「簡単に言うと歌を歌うところだ」
「お歌を…?家じゃダメなんですの?」
「…行けばわかる」
確かに歌を歌うだけなら家でも良いとなるのも文面だけ見れば頷ける、カラオケに関しては実際に行ってみた方がいいだろう。
習うより慣れろ、という偉大な先人の言葉もあるしな。
「わかりましたわ!ではすぐに車を呼びますわ!」
美弦はスマホを取り出してどこかに連絡しようとする。
「そんなに遠くないから大丈夫だ」
「少しでも歩くと白斗さんが疲れてしまいますわ」
「あのな…一応小学生の時からほとんど皆勤賞で学校に歩いて登校してきてるんだぞ、そんなにやわじゃない」
「そうなのですわ!ですから私は昔からずっとそれを嫌に思っていましたの、白斗さんが地に足を付け体力を消耗し学校に登校するなどせっかくのお時間と体力の無駄だと本当にずっと思っていましたわ!」
「わかった、とにかく今日は歩いて行こう、街並みも美弦と見たいしな」
「そういうことならわかりましたわっ!」
物心付く前からの付き合い、美弦の扱い方は大体わかっている。
この世で一番美弦の理解者…は過大評価かもしれないが、大体の美弦のことは知っている。
なんなら俺が知らない一面なんて無いんじゃないんだろうか。
「行くか」
「はいですわ!」
それから約10分と少し、少し街並みを歩いてカラオケの前に来た。
「これがからおけ…ですの?」
「そうだ」
目の前にはガラス張りの大きな自動ドア、中には店員さんも見える。
「からおけと言うぐらいですので桶と何かしら関係があると思っていましたが、私の予想は外れてしまいましたわ」
からおけを聞いて桶を想像する女子高生…これから色々な常識を教えるために色々なところに回らないといけないな。
自動ドアを潜ると、女性の店員さんが接客をしてきた。
「何名様ですか?」
「2人でお願いしま─────」
「2人ですわ」
「…え?」
何故か美弦が俺と店員さんとの会話に割り込んできた。
カラオケに来たことがない人にカラオケのチェックインをするのは極めて困難だ、ここは俺が対応すべきところだ。
「美弦、カラオケは手続きがややこしいから俺に任せてくれ」
「は、白斗さん、で、ですが…」
美弦は店員さんの方をチラチラと見ている。
「あぁ、心配ない」
「白斗さん…!」
「美弦が警戒心が高いのはわかっているが、ここには変な人なんて居ないから安心して俺に対応を任せてくれ」
「〜!そうではございませんわ〜!」
俺は荒ぶる美弦を宥め、ようやくチェックインの最終段階まで到達できた。
「お2人様ですと、10分ほど待っていただくことになりますが、不都合ないでしょうか?」
「全然大丈─────」
「ちょっと待ってくださいまし」
またも美弦が割り込んできた。
「あ、すみません…美弦、さっきも言ったが俺に任せてくれ」
「私はずっと我慢していたのにもう限界ですわ!どうして白斗さんが待たされなければならないんですのっ!?」
「いや…それがここのルールだ」
…我慢?我慢ってなんだ?
そんなに手続きがしたかったんだろうか。
だがカラオケの手続きは初めてだと荷が重すぎるし、ましてや美弦は常識に欠ける、余計に難しいだろう。
「ですがっ!」
「郷に入っては郷に従えだ、わかるだろ?」
「…ふんっ、わかりましたわよ!」
納得してくれたようだ。
俺と美弦は10分時間を空け、自分たちに割り振られた号室に入る。
「暗いですわね…」
「電気を付ければいい」
俺は手近にあったスイッチで部屋の電気を付ける。
「狭くありません?」
確かに少し狭いかもしれないが、2人用なら少し広いぐらいかもしれない。
「まぁこんなものだ」
俺と美弦はひとまず席に着いた。
狭いため俺たちは必然的に隣り合わせになるが…幼稚園の時からの付き合い、こんなことで変に意識するようなことはない。
「じゃあ試しに俺から歌ってみるか」
「は、はい、ですわ…!」
「…ん、どうした」
「な、なんでもありませんわ!」
美弦は何やら落ち着かない様子だ。
…そうか。
「もしかして、朝の傷が痛むのか?」
「…はい?朝の、傷、ですの?」
「ほら、ガラスを割った時の」
軽症とはいえ気になるぐらいには痛かったのかもしれない。
「…はぁ、違いますわよ」
「そうか?」
「なんだかいつもの白斗さんで肩の荷が降りましたわ」
ちょっとよくわからないがここはスルーが安定だ。
…歌か。
いつもなら一番最初に歌うような性格ではないが何も知らない美弦に最初に歌わせるのは酷だ、俺が歌うしかない。
俺は当たり障りのない歌を選択した。
「マイクは…あった」
「マイクで歌うんですの?」
「あぁ、あそこにスピーカーがあるだろ?マイクから入れた音があのスピーカーから出力されるんだ」
「え、それって─────」
俺は話すよりも実際にした方が早いと思い、マイクのスイッチをオンにする。
「まぁこんな感じだ」
俺の声がスピーカーを通して部屋全体を埋め尽くす。
「この響く感覚は家で味わうことができないから、普通の高校生の間では良く遊ぶ場所として使われて─────美弦!?」
美弦がいきなり倒れた。
「ど、どうした!?」
美弦に持病なんてなかったはず…もしかすると慣れない環境に身を置いてるせいでストレスが大きかったのか…?
「は、白…」
「あぁ、なんだ?救急車か?」
「違います、わ…白斗、さんの…」
俺の…?
俺は何を要求されてもすぐにできるように身構える。
「お声が、部屋中に響いて、耳が、幸せで…倒れてしまいました、わ」
「…は?」
その後俺たちは少し落ち着いてから一曲も歌うことなくカラオケを出た。
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