第27話 アイドルの正体
「ライトつきました」
「カメラセットオッケーです!」
ドアを開けると、目の前には大きな骨組みと壁があった。
…これは、スタジオ裏か。
「もう色々と準備してるのか…」
ていうかカメラ…?
アイドルのイベントっていうから確かにカメラはあってもおかしくないが、まさかここまで本格的な現場とは。
「仮にも学生の体験学習だというのに…随分と手が込んでいますわね」
そうだ、俺が言いたかったのはそういうことだ。
「あぁ、そこの君たち、ちょっと手伝ってくれるかな?」
「あ、はい!何を手伝えば…?」
「あそこの配線が絡まっていてカメラアングルが安定しないかもしれないから、あの配線を解いておいて欲しいんだ」
この人は配線の場所を指さす…確かにかなり絡まっていそうだ。
「はい?誰に向かってそのような雑用を言っているかわかっているんですの?体験学習という形で来ていますので百歩譲って私のことは良いでしょう、ですが白斗さんにまでそのような雑務を─────」
「わかりました!すぐに解いてきます!」
俺は美弦のことを連れて、その配線のところに着いた。
「白斗さん、このような雑務、白斗さんがすることではありませんわ」
「さっき美弦も言ってただろ?体験学習って形で来てるんだから、言われたことはするのが流儀なんだ」
「…白斗さん、少し私にやらせてくださいまし」
俺が配線を解くのを苦労していると、美弦が俺の位置と代わり、的確に絡まっているところを見つけるとそこを高速で解く、それを何度も繰り返しあっという間に。
「解けましたわ」
「おぉ…!」
美弦は全く疲れている様子はない、流石と言ったところだろうか。
俺たちがスタジオ裏でそんなことをしている間に、スタジオの表の方ではもうアイドルの人が入っているらしい。
「サラちゃん、今日もよろしくね」
「はいっ!よろしくお願いしま〜す!」
声だけでアイドルだと分かるほど可愛らしい声がスタジオ中に響く、そういえばアイドルのイベントとは聞いていたがどんなアイドルなのかは知らなかったな、有名な人なんだろうか。
「アイドル…楽しみだな」
「すみません白斗さん、アイドルとは一体なんなのでしょうか?」
「あぁ…」
美弦はそういったものとは一番遠い存在にいる高校生だ、知らなくても無理はない、ここはできるだけ分かりやすく説明しよう。
「簡単にいうと、歌って踊って主に異性から応援してもらって、お金を得るみたいな仕事の人たちのことだ」
分かりやすくでこんな堅い感じになってしまうのはどうかとも思うが、美弦にはこのくらいが一番分かりやすいだろうことを俺は理解している。
「なるほど…客商売、ということなんですのね」
「そうだ」
もっと堅い感じの解釈をされてしまったが間違ってはいない。
「…丁度そろそろそのイベントというものが始まるようですし、人生経験として見ておきたいですわね」
「あぁ、そうしよう」
俺と美弦はスタジオの表の方に移った。
アイドル…あぁ、あの人か。
一人だけスタジオの上で一際目立って…え?
「…あ、え?」
見間違いか…それか他人の空似なのか。
スタジオの上には、金髪で目も黄色がかっていて、髪型はツインテール、丸っきり俺の知ってる沙藍と同じだ。
「サラちゃん、今日はなんかいつもより元気あるね?」
「はいっ!ちょっと色々あって…!」
「え、彼氏でも見にきてるの〜?」
「違いますってば〜!やめてくださいよ〜」
…沙藍ちゃん?
…もう絶対にあの沙藍で間違いないな。
「…白斗さん、あの方」
「あぁ、あの沙藍で間違いない」
「白斗さん、あまり深く知らない方を下の名前で呼ぶというのは、いかがなものなのでしょうか?」
「仕方ないだろ?苗字は聞いても教えてくれなかったし、後輩にさん付けするのもおかしいしな」
「そうですわね…」
美弦は口ではそう言いつつも腑には落ちていない、といった様子だ。
「…あっ!先輩だっ!先輩〜!見ててくださいね〜!」
「先輩…?」
「あの子のこと…?」
周りの視線が一気に俺に集まった。
もはや自分がアイドルだということを全く俺に隠す気がないのか。
だからと言ってこんな大勢の前で俺にそんなエールを送るようなことはやめて欲しいな。
「あ、あの子が彼氏くん?」
「え〜?…えへっ」
「そこは完全に否定しろ!…あ」
咄嗟に大声を上げてしまった。
「先輩静かに〜」
沙藍は俺の方にウインクしながら自分の唇に人差し指を当てた。
そっちが大声を上げさせておいて…というか、あの沙藍がアイドル?確かに卓越した見た目ではあったがまさかアイドルだったとは。
…だがやはり通常あるべきリアクションよりはリアクションが薄いのは、やはりそれを納得させてしまうほどのルックスを沙藍が持っているからだろう。
「サラちゃん、そろそろ本番だけど大丈夫?」
「おっけーです!いけます!」
そこから、俺たちは初めて学校の沙藍や俺たちの後輩としての沙藍アイドルとしてのサラを見ることとなった。
その姿に、俺は釘付けになっていた。
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