第28話 サラ
「───斗…ん」
「─────白斗さん」
「え、あ、悪い、なんだ?」
サラの歌声に集中してしまっていたようだ…スタジオ内にはサラの歌声が響いている。
イベント内容は、このスタジオに来ているお客さんたちの前で歌ったり踊ったりするという、一番アイドルのイメージに近いものだった。
…良く見ると客席はすごい人数だ。
「…私たちに上の方から数枚程写真をとって欲しいとのことですわ、まぁカメラであれば白斗さんの美的センスにお任せできますし、適切な采配ですわね、本当に配線処理などということを白斗さんにさせた方は…いっそのことあの方も…いえ私が来た途端に突如2人もそのようなことになっては不自然ですわね…」
美弦は考え事をしているのか小さく何かを呟いているが、とにかく俺は上からこのサラのことを写真に収めれば良いんだな。
…上から見るとカメラなんかも何台か回っている、もしかするとテレビにも映されていたりするんだろうか。
なんてことを考えながら俺はサラのことを上から撮り、その後も何度か頼まれごとをこなし、サラのイベントが終わった。
「すごかったな…」
アイドルというだけあって歌も上手いし、踊れのキレも半端じゃない。
本当にいつも俺と話していたあの沙藍と同一人物なのか?
「そうですの?私でもできますわ」
隣の美弦は何故かサラに対抗意識を燃やしている。
「おっけーでーす」
この場を仕切っているらしい人が終了の合図をかけると、沙藍はすぐに俺のところに駆けつけてきた。
「私どうだった?先輩!」
「あっ…」
沙藍はなんの躊躇もなく俺の手を握ってきた…この沙藍は、沙藍というよりは、アイドルとしてのサラの方な気がする。
「良かった…んじゃないか?」
「ありがとっ!」
飛び跳ね、笑顔を向けてくる。
…屈託な笑顔をしているが、なんだろうか。
完璧に可愛い仕草、可愛い声、可愛い応対。
それら全てが計算されているように感じてしまう、おそらくアイドルだということを知ってしまったから、余計なフィルターが入ってしまってるな…
「先輩、ちょっと一緒に来て!」
「え?」
サラは俺のことを関係者以外立ち入り禁止と書かれている部屋に自分と一緒に入れようとするが、それを美弦が制止する。
「待ってくださいまし、関係者以外立ち入り禁止じゃないんですの?」
「先輩は私の関係者だもん」
「でしたら私も関係者ですわよね?」
「天霧先輩は学校の先輩!」
「あなたと白斗さんもそれ以上でも以下でもないですわよ!」
「とにかく、天霧先輩は入ってきちゃダメだからね〜」
サラは強引に押し通すと、俺のことをその部屋に入れた。
「俺のことを強引にこんなところに連れ込んで、どうするつもりだ?」
「前にも言ったけど、先輩には助けてもらった恩があるんです、他の人は見て見ぬふりだったけど、先輩は助けてくれて…だから、先輩にはどんな形でもお礼がしたいんです」
「だから俺は恩を売りたくて助けたんじゃないんだから、本当に全く気にする必要無いんだって」
「先輩にはわかんないかもですね、私がどれだけ不安だったか」
サラは少し沈んだ声になった。
「一人の女子高生が男性複数人に囲まれた時の恐怖ときたら…もちろん実力行使でなら、護身術は一通りアイドルとして習ってるけど」
…え、サラっとすごいことを言ったな。
サラだけに。
…は?何言ってるんだ俺。
「でも、いざとなったら体が動かなくて、そんな不安だった時に、先輩が助けてくれて…ちゃんとその時顔も覚えて、先輩が落としていった生徒手帳を見て、今の高校に進学することに決めたんです…去年の冬のことなので先輩は覚えてないかもですけど」
「いや、覚えてる」
そんなことそうそうあるわけもなく、その一件は記憶に強く残っているが…夜道で暗かったというのと、帽子とかも深く被ってたからあまり顔は記憶は残ってなかった…しかし、アイドル、なるほど。
それは帽子を深く被らないといけないわけだ。
「進路にまで関わってたなんてな、そんなに記憶に残ってたのか」
「もちろん助けてもらったこともだけど、顔が…タイプっていうか、好みだったっていうか、で、覚えてて…」
「顔?その時俺の顔に何か付いてたのか?」
「あっ!ち、違うます!」
「違うます?」
さっきまで沈んだ声になっていたと思ったら、今度は突然動転し出した。
…美弦とは違う意味で感情の起伏が激しいな。
「とにかく、どんな先輩でも先輩にお礼…っていうのは嘘、本当は私が先輩になんでもしてあげたいんですっ」
「…は、え?」
それって…って、アイドルの職業病か。
この言葉で今まで人を一体何人勘違いさせてきたんだ。
「先輩、ここには絶対に誰も来ないし、監視カメラも無い…から、私と─────」
「ここは今天霧が買わせていただきましたわ!」
「うわっ!?み、美弦!?」
ドアが勢いよく開いたと思ったら、美弦がとんでもないことを言いながら部屋に入ってきた。
「2人になって何かするつもりだったのでしょうが、そうはいきませんわよ、私のことを甘く見ないでくださいまし」
「え〜厄介…どうしてよりにもよってこんなすごい人が先輩を…私って運無いな〜」
「白斗さん!今後この方との関係は見直した方がよろしいと思いますわ!」
「えぇっ!?」
美弦は急に何を言い出すんだ…俺は少しの間美弦の話を聞くことにした、その間、サラ…沙藍は一言も会話には参加しなかった。
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