第11話 初お泊まり

「白斗さんをこんな大雨の中一人お外に出すわけにも参りませんし、やはり本日は泊まっていただくのが賢明ですわね」


 神崎さんが洗濯物を入れている最中、俺と美弦はガラス張りで外のことを見渡せるところに2人立ち外を見ていた。

 今思い返すとさっきの美弦と神崎さんの会話はどこか出来過ぎている気がするのは俺の気のせいなんだろうか。


「白斗さん、本日お料理は何か召し上がりたいものはございますの?」


「そんなこと聞くってことはもしかして美弦が料理を作るのか?」


「その通りですわ!」


「じゃあなんでもいい」


 美弦は料理がうまいため、どんなものが出てきてもハズレなんて絶対に無いだろう、何なら全て美味しいと思われる。


「なんでもいいわ困りますわよ…!」


「美弦が作ってくれたものならなんでもいいが…」


「えっ…」


「そこまで言うなら…魚料理が食べたい」


「わかりましたわ!…ですが白斗さん、こういうとき巷ではビュッフェを食べたいと言うのが定石ですわよ…!」


「ビュッフェ…?」


 ビュッフェという単語は知っているが意味は良く知らない。

 というかどこの巷なんだそれは。


「結婚相手にはそう言うんですわよ!」


「それ…味噌汁の間違いじゃないか?」


「え、そうなんですのっ!?」


 本当に一体どこの巷ではそんな間違いが行われているんだ。


「そうだ」


「そうなんですのね…まだまだ視野が狭いようですわ、ともかく!命を懸けて魚介料理を作ってまいりますわ!」


「あぁ、ありがとう、程々にな」


「はいですわ!では白斗さんは自由に待っていてくださいまし!おそらく30分ほどで出来上がると思いますので、それまでには食堂に居てくださると助かりますわ!」


「あぁ、わかった」


 美弦は俺にお願いだけ言い残すと、食堂を後にした。

 …と言われても、幼馴染の家とは言えそんな無闇に自由になんて移動はしたく無いため、俺は大人しく食堂で待っていることにした。

 10分ほど食堂で座って美弦のことを待っていると、洗濯物を入れ終えたらしい神崎さんが食堂に戻ってきた。


「空薙さん、お嬢様はどちらへ?」


「あ、ご飯を作ってると思います」


「そうでございましたか」


 神崎さんと2人の空気はなんだか緊張するな。

 口調と言い雰囲気と言いものすごく大人っぽいからだろうか。


「空薙さんはお嬢様のことをどうお思いなのでしょうか?」


「…え?」


 神崎さんは突然意味深なことを聞いてくる。


「どうっていうのは…?」


「…いえ、忘れてください」


 神崎さんは意味深なことを言い残しまだ何かやることがあるのか食堂から出て行った。


「…俺が美弦のことをどう思うのか、か」


 …そう聞かれて改めて思うが、俺は今おそらく自分の感情を把握しきれていないんだろう。

 だがそれは、今まで普通に仲の良い幼馴染だと思っていた美弦からいきなり告白…よりも大きい、婚約をしようという話をしてきたからだ。


「こんなのは俺でなくても困惑するだろうな」


 俺は今、美弦にどういった感情を抱いているんだろうか。

 自分でもそれを本当に知りたいと願っている。

 俺が一人物思いに耽っていると、香ばしい匂いが食堂に持ち運ばれてきた。


「白斗さん!できましたわ!」


 どうやら美弦の料理が完成したらしい。

 どうりでこんなに魚の良い匂いがするわけだ。


「見てくださいまし!」


「あぁ、すごいな美弦は」


「光栄ですわ!」


 美弦は俺の目の前に食事を置くと、俺の正面に座り自分の前にも食事とお箸を丁寧に置いた。


「いただきますですわ!」


「いただきます」


 俺たちは手を合わせると早速お箸を手に取りご飯を食べようとする、が…


「……」


「…なんだ?食べづらいんだが…」


 いただきますと言ったはずの美弦は何故か俺のことをガン見している。

 まさか俺と目の前に置いてある魚のことを見間違えているわけでは無いだろう。


「ご感想を!お聞きしたいんですのっ!」


「あぁ、わかった…」


 俺は少々食べづらくはあるが素直に食べてみることにした。


「…美味しいな」


「っ!本当ですのっ!?」


「本当だ、嘘なわけがない」


 ちょうど良い火加減に絶妙に合致している塩味。

 まさに至高の一品と言えるだろう。


「良かったですわ…では!私も食べますの!」


 美弦も自分で食べ、満足行っている様子だ。

 その後ごちそうさまを2人で言い、俺は初めて美弦の部屋に行くことになった。

 俺は今日美弦の家で寝るらしい。


「ここですわ!」


 …ものすごく綺麗な部屋だ。

 机もベッドも椅子も棚も、全て白と金の模様が入ったもので統一されている。

 ここまで統一感がある部屋は珍しいんじゃないだろうか。


「ど、どうですの…?」


「流石美弦の部屋だ、綺麗だと思う」


「よ、良かったですわ〜!」


 美弦は安心した様子だ。


「…ん」


 俺は少し気になったことがある。


「どうしたんですの?」


「ベッドの上に枕が2つあるようだが、いつもは誰か家族の人と一緒に寝てるのか?」


「あっ…い、いえ…!これは、その…」


 美弦は少し恥ずかしそうにしている。


「…いつか白斗さんと隣で眠る時のためのものですわ」


「なるほ…なるほど!?」


 俺は少し悪寒がした。


「美弦…?今日って、もしかして…」


「本日!その夢が叶うんですのねっ!」


 俺はこの危機をどう乗り越えるか、真剣に考えることにした。

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