幼馴染の財閥令嬢が俺のことを無理やり婚約者に指名してきた
神月
プロローグ 昔の契り
「このかみにごじぶんのおなまえをかいてほしいんですの!」
「え…?このかみにそらなぎはくとってかけばいいの?」
「そうですわ!」
「なんで…?」
「かいてくださってからおおしえしますわ」
「わかったよ〜」
「─────夢…?」
…いや夢っていうよりかは過去の記憶か。
それにしてもなんでまたあんな古い記憶を…
俺はベッドから起き上がり、部屋を出て洗面所で自分の顔を洗い、鏡で自分の顔を見る。
俺の名前は
特にお金にも困っていなければ何かが突出しているわけでもない。
本当にどこにでもいる普通の高校生。
「あれ…」
洗顔用に置いてあったはずのタオルが無い。
「またか…」
俺は俺のタオルが無い原因だと思われる犯人のところに足を進める。
本来なら異性の部屋に入る際…というか他の人の部屋に入る際にはノックをするのが基本だと思うが、こっちは勝手にタオルを使われている身、そんなマナーなんて知ったことじゃない。
「おい!」
「うわぁっ!?はっくん!?」
この人は従姉妹の
家が近いからとたまに我が家に泊まりに来る。
優しかったり甘やかしてくれたりもする完璧なお姉ちゃんというのは半分間違っていないがもう半分は今のように勝手に人のタオルを使ったりプリンを食べたりと色々と締まらない人だ。
「メイク中なんだから驚かさないでよ〜」
「メイクなんてしなくても綺麗なんだからそんなの後にしてくれ」
「え、それって─────」
「それよりも、だ!洗顔終わりに俺の顔を拭こうと思ったらタオルが無くなってた件について犯人を探してるんだが知らないか?」
「あれ私のために用意してくれてたんじゃなかったの!?」
「そんなわけないだろ!自分のことは自分でしろ!!」
これでも一応この人は俺より3つも年上で大学生だ。
そろそろ周りでも大学受験という単語が耳に入ってくるようになったが、この人でも受かっているならそんなに気張らないぐらいがちょうど良いのかもな…なんて思ったりもする。
「は〜い、あ、はっくんは最近お勉強頑張ってたりするの?」
「ぼちぼちだ」
本当にぼちぼち…授業って家に帰ったらノートをパラパラと見返すぐらい、本当にぼちぼちという表現が正しいだろう。
「そっかぁ〜、がんばってね〜」
朝から気の抜ける応援をいただいた。
俺はもう怒る気力も失せたため、今一度部屋に戻り登校する準備を進めた。
「…ん」
今の間にメールが来ている。
『本日も一緒にご同行したく思いますわ』
「……」
このメール相手の名前は
この相手は幼馴染で本当の幼少期からずっと一緒に育ってきている。
それこそ兄弟のようにと言ってしまっても良いほどの距離感だ。
俺は了解したという旨のメッセージを返信する。
続けて美弦からまたメッセージが飛んできた。
『本日は少し、大事なお話があります…わ』
なんだ…?何かあったのか。
俺はどこにでも居そうな普通の高校生だと言ったが、美弦はそんな普通なんていうのとは大きくかけ離れている。
まず美弦の生まれは
この時点で俺との差は歴然だ、天霧財閥というのは工業から農業、建設業、情報通信業と色々なことに手を出しているこの国屈指の財閥のことだ。
凄さを手近なもので言うと生まれた瞬間から婚約相手がいるほどのものだ。
言葉だけで言い表そうとすると辞書ができそうなほどすごい財閥の娘から来ていると思いもう一度さっきのメールを見返そう。
『本日は少し、大事なお話があります…わ』
そんな美弦からの大事なお話…話のスケールとしては国家存亡の何かが起きているとしてもおかしくはない。
俺は学校のカバンと共に目に見えない覚悟も背負い、家から出た。
「…え?」
「お待ちしてましたわ!」
俺が家を出るとすぐそこには雪のように白い肌、絵でも描いたのかという顔立ち、そして高貴な紫ともピンクとも取れる色合いの髪色をした美弦がいた。
…そうじゃなくて!
「なんで俺の家の前に居るんだ…?」
「立ち話もなんですし、一旦あそこに入ってくださいまし」
当たり前のように俺の家の前にいかにも高級車といった縦長い車、リムジンが停泊していた。
が、リムジンを見ることに関しては慣れっこだ。
慣れっこというと語弊が生まれてしまうが、美弦とずっと生活していればたまに見る、美弦の家の中には入ったことがないが、外から見るだけでもお屋敷だ。
今更こんなことで驚きはしない、驚きはしない…が。
「これから学校だがそれは…?」
「そんなことよりも!大事なお話なんですの!」
「そ、うか」
そうだ、今日は大事な話があるって言ってたな。
俺は確かにそんな大事な話なら立ち話は良くないと思い、大人しくリムジンの中に入らせてもらった。
中はしっかりとクーラーが効いていて涼しい。
「ん」
運転席にいる美弦の使用人さんも、落ち着かないような形相をしている。
やはりそんなに大事な話らしい。
「大事なお話の前に、先程白斗さんのご自宅の中から白斗さんとは違う女性の声が聞こえたのですが、どなたでしょうか」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「特に理由はありませんわ」
美弦はたまによくわからないことを言い出すが、それについても慣れっこだ。
「従姉妹が泊まりに来てるんだ」
「なるほど!安心致しましたわ!」
「安心…?」
「いえ、こちらの話です、では大事なお話をしましょう」
そう話を切り出されると共に紙も俺の目の前に差し出された。
「こちら、何かお覚えですか?」
「え…?」
一見ただの白紙のようにしか見えない。
美弦は微笑みながらその紙を裏返した。
「これ、は…」
「昔書いていただいたものですわ」
…今日夢で見たあの時のものだ、こんなことがあるのか。
その紙の文字は全てひらがなで書かれている。
まだ残っていたとは、懐かしいな。
「あぁ、覚えてる、これがどうしたんだ?」
「まだわかりませんの…?お仕方の無い人ですわねっ」
美弦はこほんと咳払いを入れてから改まり、俺に告げた。
「─────この婚姻届に則り、あなたを婚約者に指名しますわ」
◇
甘々で激重な大物美少女たちが、俺を養いたいと言いながら過激に迫ってくる件────という最新作を公開させていただきました!
ご興味をお持ちいただけた方は、そちらの物語も併せてお読みいただけると幸いです!
↓作品URL
https://kakuyomu.jp/works/16818093089472865717/episodes/16818093089472888773
◇
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