第42話 輝鞘に報告

「輝鞘さん、あなたに報告しなくてはいけないことがありますわ」


 さっきの話があったからか、美弦は輝鞘に会って言いたいことがあると言っていたため、二人を会わせることにした。

 もし美弦が一触即発な雰囲気であれば止めていたが、美弦からそんな雰囲気は感じられない。


「報告…ですかぁ?」


 輝鞘は俺にはあまり敬語を使わないのにも関わらず美弦にはしっかりと敬語を使うようだ、その差は一体どこにあるんだと今度問いただしてみようか。


「あら、今日は敬語なんですのね、白斗さんが居るからですの?」


「えぇ〜?やめてくださいよ〜、私たち2人でランチするような関係じゃないじゃないですか〜、それともタメ口で話した方が良いですか〜?」


「いえ…それよりも、さっきも言いました通り報告がございますの」


「なんですか〜?」


 次の瞬間、美弦が突拍子も無いことを言い始めた。


「私たちの関係について、ですわ」


「関係…?もしかして付き合ったとかですかぁ?そんくらいじゃ驚きませんよ〜、ずっと一緒に居た異性と付き合うなんてよく聞く話ですもんね〜」


「そんな俗な話と一緒にしないでくださいまし」


「え…?」


「私と白斗さんは、婚約したんですわ」


 それを聞いた耀鞘は少し沈黙した。

 …というか俺だってそうだ。

 もちろん婚約したなんていうのは俺と美弦の間では当事者同士なんだから当たり前だが、それを輝鞘にそんなにストレートに言うことに対しては驚きを隠せない。

 少し沈黙していたが、ようやく輝鞘が口を開いた。


「天霧先輩〜、今は妄想を語る時間じゃないですよ〜、高校生で婚約なんて〜…よくある話ですね…」


「普通よくは無い」


 輝鞘は何故か納得してしまったようだが普通に生きていれば高校生が婚約なんて機会に直面することはないだろう。

 これはおそらく輝鞘の環境が特殊が故にすぐに飲み込めてしまったと解釈すべきだ。


「え、じゃあ本当に婚約したんですか?」


「そう言いましたわ」


「…まぁ」


 俺は別に後ろめたいことではないことは分かっているにしてもやはり高校生で婚約というのは一般人の俺からすると常識外なことに該当するため少し控え目な態度になってしまう。


「…へぇ、そうなんですか〜」


「ですので、私の婚約者フィアンセと2人になりたいということでしたら、その前にまず私のことを通してくださいまし、私が納得すれば2人にして差し上げますわ」


「どんなことだったら納得してくれるんですか〜?」


「それは実際に提案されるまで分かりませんわよ」


 美弦は何故か少し勝ち誇った表情になっている。


「じゃあ例えば今日とかだと、先輩と私のお家で一緒に私の出てる番組を見たいっていう話だったんですけどそれはぁ…?」


「無論ダメに決まっていますわ、輝鞘さんが男性なら白斗さんの男友達ということで一向の余地はありましたが、輝鞘さんは女性でましてはアイドル、きっと男性がどうすれば喜ぶのかを熟知しているのでしょう」


 確かにアイドルにはそんな印象もあるがそれを本人に言うときはもう少しオブラートに包むと言うことを覚えた方がいいと俺は密かに思った。


「そんな方と白斗さんを2人きりになんてできるはずがありませんわ」


「え〜、天霧先輩は私が空薙先輩のことを家に入れた瞬間に自分の部屋に連れ込んで女の武器を使って空薙先輩のことをどうこうするとでも思ってるんですかぁ?」


 どうしてそんなにも鮮明なんだ、あとアイドルが女の武器とか言うと何がとは言わないが少しリアルな感じが出るからやめていただきたい。


「はい」


 そして美弦は即答、ここまで来るともはや清々しい。


「しないですよ〜、信じてください!」


「聞けない話ですわね」


「…あ、じゃあ3人でならどうですかぁ?」


「…3人?輝鞘さんと白斗さんと私、ということですの?」


「じゃなくて、私と空薙先輩と私の同級生!実はこの前も一緒に出かけた仲なんですよ〜」


 仲と言っても一回だけ一緒に出かけただけだが、それをここまで得意げに語れるのは流石と言うべきだろうか。


「そうなんですの」


「先輩は婚約者フィアンセの交友関係まで阻害するじゃないですよね〜!もしそんなに重いかったら空薙先輩にいつ捨てられちゃうかわかんないですもんね〜」


「もちろん止めはしませんわ、ですが白斗さんはまだその件に対してイエスとは言っていませんわよ」


 確かに何故か3人で出かけること前提で話が進んでしまっているが、俺はそもそもそれに同意や賛同の意を示していない。


「もちろん俺はイエスとは答えない」


「それは困っちゃうなぁ、でも私はどうしても空薙先輩と一緒に居たいんです」


「先輩と居たいって…それじゃまるで告白してるのと同じだってことに気づいてるのか?なんてな」


 そんな発言客観的に聞いたら告白以外の何者でもないことに人に見られる仕事をしている輝鞘が気づいてないわけがないと思うが…本当に人をからかうのが好きなんだろうな。


「…え?」


「……」


 沙藍が驚いた表情を、美弦は若干呆れを隠すような態度を取っている。


「…え?」


 そしてその反応に対して今度は俺が驚く。


「まさかですけど空薙先輩…気づいてなかったんですか?」

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