第43話 鈍感

「気づいてないって…何に…?」


「私が空薙先輩のこと好きってこと」


「…え、えぇぇぇぇぇ!?」


「ちょっ、演技でやってるならやめてそれ〜!私同業で猫被ってる子見るの苦手なタイプだから〜!」


 何を言っているんだ…?

 …え?

 輝鞘が俺のことを…す、好き!?


「と、友達とか尊敬する先輩としてとかじゃなくか…!?」


「そうだってば…本気で気づいてなかったんだ…」


 何故か俺は輝鞘に引かれている。


「本当に、白斗さんは…それが時にありがたいこともありますが、私に対してまでその鈍さを何年も継続させるのはどうかと思いますわよ…」


「え…?」


 いつもは基本的に俺のことを全肯定してくれているはずの美弦でさえ今回ばかりは同意できないらしく、俺に対してオブラートに包もうとはしているが包みきれていないようなことを言ってきた。


「とにかく、可愛い後輩アイドルが先輩のこと好きってこと!もちろん恋愛的な意味で」


「そうなのか…?今までそんな素振り…」


 あったか。

 言われてみればそんな素振りしかない。


「そうですわね、この方は白斗さんに恋文を送っていますが、私がそれを破きましたから」


「え、え…!?」


 破いた…!?


「もう〜、その話何回聞いても酷いですよ〜」


 とはいえ輝鞘は特に動揺していない様子だ。

 …女子の世界ではそんなことは普通なんだろうか、なんだかわからないがあまり深く入り込まないのが自分のためなような気がする。


「大体、あなたのような男性客を相手にした商売を生業としている方が白斗さんと恋仲になろうなど、はっきり言ってやめていただきたいんですの」


「え〜、天霧先輩私にどんな偏見持ってるんですかぁ?」


「あなた個人というよりも、あなたの職業、アイドル、芸能界といったものと深く関わっている方に清廉潔白な白斗さんと関わってほしくないんですの…まぁあなたのことをアイドルと知らなかった時でも白斗さんに女性が近づくのは好ましくなかったので恋文を破りましたが」


 最後のことについては本当に少し一線飛んでいるような気もするが、さっきも言ったようにこのことに関しては触れない方が得策だと俺は判断した。


「私別にそんな汚くないですって〜、それに、天霧先輩がなんて言おうと先輩が私のこと好きになってくれたら関係ないもん〜」


 そう元気に言ったのも束の間、次の瞬間には真剣な顔つきになっていた。


「と思ってたけど婚約までされちゃったら無理かな〜、一生恋愛できないと思ってた私の初恋だったのにな〜」


「白斗さんは私に婿入りするので、その初恋は叶わないということを改めて認識してくださいまし」


「は〜い…あ、じゃあ最後に空薙先輩、もし何か天霧先輩とのことで困ったら私に相談してくれれば解決するから相談してね〜」


「ダメに決まっているじゃないですの!そうやって白斗さんに付け入ろうとしても無駄ですわよ!白斗さんが改善してほしいと思ったことは私は何に替えても改善しますわ!」


 …一時はどうなることかと思ったが。

 輝鞘は薄々こうなることをわかっていたのか、もう自分の気持ちとの整理はついているようだ。

 …本当に輝鞘にはほとんど何もしていないのにここまで好いてくれているのは純粋に嬉しい話ではあるが、俺はもちろん美弦との未来しか考えていない。


「…でも空薙先輩って不思議〜、こんなにかわいい私がアタックしても全く動じないなんて〜」


「当然ですわ、白斗さんはそのような方ではありませんもの」


 正直もし恋愛的な意味で好意を持たれているとわかった上でアタックされていればどうなっていたかはわからなかったかもしれない…自分の鈍さが逆に役立った結果と言えるだろう。


「婚約ってことは空薙先輩が来年18歳になったらもう結婚する感じなんですかぁ?」


「もちろんですわ」


「式もあげちゃったり?」


「それももちろんですわ、ハネムーンも計画していますわよ」


「え…え?」


 婚約…そうか、確かに年齢が結婚できる年齢に達してないから婚約っていう表現にしているだけで美弦としては本来なら今すぐにでも結婚をしたいと思っているのか。

 もちろん俺だってそうだが…


「美弦…?18歳で結婚は─────」


「安心してくださいまし!もちろん生活費に困ることなんて今後一生ありませんし、子供もせめて20歳を超えてからが良いとおっしゃるのであればもちろんその通りにいたしますわ!2人の時間も大切ですということはしっかりとわかっていますわよ!」


 美弦は勝手に舞い上がっている。

 そういう心配をしてたわけじゃないんだが…


「…空薙先輩、天霧先輩は多分重症だと思うので下心とかじゃなくて私に相談していいよ」


「…そうさせてもらうかもしれない」


 婚約して一息つく…なんてことにはならなさそうだ。

 むしろこれからの方が今まで以上に、大変な日々を送ることになることが簡単に想像することができた。


「あ、白斗さん、本日は一緒にお買い物にいきましょう!婚約者になったということは、これでようやく予算を鑑みることなく存分に白斗さんに色々なものを買って差し上げられますわ!放課後が待ち遠しいですわね!」


「あ、おい…!」


 俺は美弦に強引に腕を引っ張られ、教室に戻った。

 その間、背中に一つの小さな視線を感じていた。

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