第9話 結婚式場

「以前メールしました通り本日は!私が主導でお出かけさせていただきますわ!」


 今日は初めて美弦が色々と算段を立ててくれているらしいため、俺はそれを純粋に楽しもうと思う。


「あぁ、楽しみだ」


「はいですわ!お任せくださいまし!…ではこのお車に乗って欲しいんですの」


 美弦が目を向けた先には明らかに高級そうな車が置いてあるが、リムジンではないようだ。


「リムジンだと移動速度にかけるので、本日はリムジンより窮屈かもしれませんが、お許しくださいまし、申し訳ないですわ…」


 美弦は本当に申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「大丈夫だ、というかリムジンなんていう方がすごすぎるんだ、本当に全然頭を下げるようなことじゃない」


 見た感じその車も全然普通の車に比べれば広そうだ。


「ありがとうございますですわ!では早速参りましょう、ですわ!」


 美弦に言われ車の中に入る。

 車の中はやはり普通の車より広いようだ、全然窮屈ではない。


「神崎、進めてくださいまし」


「了解でございます」


 神崎さんは車を目的地に進めた。

 神崎さんは本当に数度だけ会ったことがある…と言っても車の運転手として見たことがある、程度だが。


「そういえば、移動速度を重視してこの車を選んだって言ってたよな?」


「はいですわ!」


「ならもしかしてその目的地は結構遠かったりするのか?」


「そうですわね…少し遠いかもしれませんわ」


 特に車酔いはしないが長時間車に乗っているとなんだか眠くなってくる節があるため、眠ってしまうかもしれない。


「白斗さんはお車平気でしたわよね…?」


「あぁ、別に大丈夫だが…寝てしまうかもしれない」


「そうなんですのっ!眠くなったらいつでも寝てくださいまし!いつでも私が枕になりますわっ!」


 これはなんとしてでも眠ってはいけない気がする。

 1時間ほどなんとか眠らずに耐え、車は目的地に着いたようなので俺たちは車から降りた。


「白斗さん眠りませんでしたわね…」


「あぁ、お陰様でな」


「お陰様じゃないですわよ〜!」


 美弦は何故か残念がっている。


「…まぁ、本日の目的はそこではないのでそれは構いませんわ、神崎、お願いしますわ」


「承知致しました」


 神崎さんは目の前にある建物に入って行った。


「…なんだこの建物?」


 目の前には白い建物がある。

 聖堂とまでは言わないが何かの儀式でも行えそうな雰囲気だ。


「結婚式場ですわ」


「……え?」


 俺は絶句した。

 結婚…式場?

 俺は今日美弦が全て考えてくれるというから本当に何も考えず、ただ楽しむことだけを考えていた。

 美弦のことだからちょっと高めの料理店とか、もしかすると俺には想像できないようなことがあると身構えてはいたが…


「こんなの想像できるわけがない…」


「驚いてもらえましたの?」


「驚きというか…そもそも、結婚はまだできないだろ」


「えっ…!そんな…!白斗さん、結婚なんて…!まだお気が早いですわよ!この国では結婚はまだ私たちはできませんわよ!」


「わかってる!俺はそれを言ってるんだ!」


「はい…?」


「結婚もできないのに結婚式場になんて一体何の用できたんだ?」


 本当に意図が全く理解できない。

 まさか誰かの結婚式に部外者の俺を呼び込むなんて失礼なこと、いくら常識を知らない美弦でもそれは意味が変わってくる、そんな他人に迷惑になるようなことはしないだろう。


「何って…下見、ですわよ?」


「下見…?」


「はい、実際に結婚する時のために、きっと白斗さんは緊張すると思いますの」


「まぁ…確かにするとは思う」


 けどそんなところに気を配ってくれるならこんな立派な結婚式場にされると余計に緊張するだろ…やめて欲しい、もっと言い方は悪いが安そうなところがいい。

 素人目にもここが高そうなことは一目でわかる。


「ですので!私たちの将来の結婚式を滅茶苦茶にしないためにも、今のうちに下見しておくんですわ!」


「なんで俺と美鶴がもう結婚することになってるんだ?」


「え、私以外と結婚するんですの?」


「それは…わからない」


「…今、想い人はいますの?」


 女友達と呼べる存在はいるが想い人は…


「いない」


「ならいいですわっ!」


 俺と美弦が少し間を空けて戻ってきた神崎さんについて行き、本当に結婚式場の下見をして回った。

 観覧席にドレスルーム、誓いの場に庭園まで行かせてもらうことができた。

 …何をしているんだ俺は。


「見てくださいまし!この庭園!私ものすごく気に入っていますの!」


「あぁ、確かに綺麗だ」


 周りはバラで囲まれていて、その真ん中に白いテーブルと椅子。

 本当にファンタジーみたいな光景だ。


「は、白斗さんの方がかっこいいですわよ…」


 本当に相当手間が掛かって…ん。


「悪い、なんて言った?」


「なんで聞いてないんですのよ!」


「この景色がすごくて…」


「まぁいいですわ…それで、今日1日で私と婚約していただけるように少しは近づきましたの?」


「…先に言っておくと、別に美弦と婚約したくないわけじゃないんだ」


「えっ…そうなんですのっ!?」


「あぁ」


 何度も言っているが別に美弦のことは普通に好きではあるし、婚約をしない理由を探す方が難しい。


「だが、これも何度も言うが立場が違いすぎる」


「立場立場と…それしかないんですのっ!?」


「あぁ、無い」


「えっ…」


 美弦は少し驚いているようだ。


「それは、つまり、ですわね…私自身に観点をおけば婚約してくださってもいいということですの?」


「それはもちろんだ」


「〜〜〜!白斗さん!」


「なんだ…?」


「今すぐに私の家に来てくださいまし!」


「は…?なんでだ…?」


「直談判ですわ!」


 美弦が立場的にものすごく大問題になりそうなことを言い出した。

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