第2話 興味

「美…弦?どう、したんだ?」


「すみません、私さっきも言った通り白斗さんに恋する乙女なので、その白斗さんの恋愛事情にはとても興味がございますの」


「そう、か…?」


「はい」


 女子高生が恋愛に興味を持っていると言うのは何も不思議ではない。

 恋バナというのは男女問わず高校生、早ければ中学生、小学生からしている人も居るかもしれない。

 …が、それを言葉通り受け取っても良いのか…?


「……」


 ここで好きな人なんて居ないというのは簡単だが、それだと何故嘘をついたのか、もしくは好きな人を隠そうとしていると取られかねない。

 だからこその妥協の一手。


「好きな人、はちょっと語弊があったかもしれない、興味がある人が居るんだ」


 確かに今まで恋愛関係に一切興味のなかった俺が突然好きな人ができたなんて言ったら多少驚いても仕方ないか。

 …ガラスを割るのが多少なのかどうかは少し疑問ではあるが、美弦からすればガラスの1枚や2枚、なんてこと無いのかもしれない。

 ともあれこれでさっきまでの美弦に戻ってくれるはずだ。


「そうですか、で、誰ですの?」


 あ…れ?

 一向に対応が変わっていない。

 問題はそこじゃなかったのか…?

 分からない…だが明らかに誰かを答えないといけない流れだ。

 かといって嘘はつきたくない…興味、興味。


「美弦に興味があるんだ」


「ぁ…!」


 これは嘘ではない。

 実際美弦と会ってから興味が削がれたことは一度もない。


「もうっ!そういうことならそうと言ってくださればよかったのに〜!びっくりしましたわ〜、心臓止まるかと思いましたわ…」


 それはこっちのセリフだが、元の美弦に戻ってくれたようで何よりだ。


「でしたら!これからはもっと私のことを知っていただくために、お外にお出かけしたり私のお家で遊んだりいたしましょう!」


「え…?」


「今までは白斗さんのお家で遊ぶか話したりとかしてこなかったじゃありませんか!ですから、これからは私の婚約者としていっぱい色んなところに連れて行って差し上げますわ!」


「あぁ、ありがとう…あぁ?」


 …私の婚約者として?


「ちょっと待て、婚約を引き受けた覚えはない!」


「まさか断るつもりですのっ!?」


「だからさっき言っただろ?俺と美弦とじゃ立場が全然違う」


「ですからっ!それもさっき言いましたわよ!そんなもの関係ないと!」


 関係ないと言われても俺からすればそこが一番気になるところだ。


「関係なくない」


「ないですわ!」


「ある!」


「ない!ですわ!」


 参った…こうなると話が進まない。


「わかりましたわ!ともかく婚約の話については一度保留で良いですわ」


「あぁ、俺たちの一存で決められることじゃない、ちゃんと美弦の婚約相手の人にも確認を取らないといけない」


「それは多分大丈夫だと思いわすわ、優しい方ですのできっと認めてくださるはずです」


「そうか」


 優しさと婚約を蔑ろにするのとは少し意味が変わっている気がするが美弦がそう言うのであれば今はそれで良いか。


「ではっ!白斗さんが私と婚約したい!と思ってくださるために、これからはもっともっと私のことを知っていただく必要がございますわ」


「…あぁ」


 俺の意見はさっきと変わらず立場が違いすぎるためあまり乗り気ではないがここは乗っておくのが吉だろう。

 

「ですのでっ!これからは休日毎日お会いしましょう!あ、もちろん平日も男女別授業という何故白斗さんと別れなければならないのか分からないものの時間と深夜以外はずっと一緒ですわよ!」


「嘘だろ!?」


 休日毎日…?


「それは流石に困る」


「何がお困りなのでしょうか…?私でできることであればなんでも致しますわ」


「たまには一人になりたい時もある」


「そうなのですか…?」


「普通そうだ!」


 むしろたまにも一人になりたくない人間が存在するのか疑問を提したい。


「私は常に白斗さんと一緒に居たいですわよ?」


 目の前に存在した。


「まぁ…とにかくわかってくれ」


「むぅ…仕方ないですわね、白斗さんの意志は尊重したいですし、1週間の内数日だけはご自由にしていただきますわ」


 これが美弦の出さる最大の妥協ラインと言ったところだろうか、別に美弦と会いたくないわけではないためそのぐらいなら構わない。


「早速!次の休日はどこに参りましょうか!」


「今決めなくても良いんじゃないか?」


「いいえ!今決めてしまいましょう!やはりお出かけとなると飛行機は必須ですわよね、あ!海外にものすごく大きな美術館があるんですの、是非白斗さんと一緒に行きたいと思っておりましたわ…でもそっちに行くとあの美味しいお料理店に行くことができな──────」


「待て待て!なんで海外前提なんだ!?」


「…お出かけと言ったら海外じゃございませんの?」


「いやいや!ゲームセンターとか本屋さんとか、女子でもショッピングモールとかカラオケとか高校生なら色々あるだろ!?」


「げーむせんたー…から、おけ、ですの?」


 全く通じていない。

 そもそも出かけるとなると飛行機が必須って、高校生ではまず絶対居ないし大人だってそんな思考回路してる人おそらく片手で数えられるぐらいしかいないだろう。


「…これから色々連れて回るから、飛行機で海外に行くなんていうのは夏休み…せめてゴールデンウィークとかになったらにしよう」


「わかりましたわっ!!」


 こうしてこれからは美弦のことをもっと知るために、さらに仲を深めることになった。

 美弦としてはその先で俺と婚約したいようだが、今の俺の意見としては立場が違いすぎるためのではなく、といった感じだ。

 …将来俺の考えは変わってるんだろうか。


「お二人とも、大丈夫ですか?」


「何がですの?」


「時間です」


「……」


 俺と美弦は同時に時計を見て、美弦は特に動揺していなかったが、俺は顔を青くした。


「やばい早く行かないと遅刻する!」


「もう少しお話──────」


「後でいくらでもできるだろ!それより早く行くぞ!」


 俺はこの期に及んでまだ話していたいなんていうことを言う美弦を車から連れ出して小走りで学校に向かった。

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