第6話 初ゲームセンター

 ショッピングモールのゲームセンター、本格的なゲームセンター専門店に比べると少し見劣りしてしまうのかもしれないが、それでもクレーンゲームにコインゲーム、レースゲームに少しのアーケードゲームとショッピングモールの一部のゲームセンターとしてはかなりすごいと思われる。


「ここが…げーむせんたー、ですの?」


「あぁ」


 相変わらず言い慣れていない感が否めないな。


「なるほど…げーむというものは私知っていますわ!白斗さんがお家でたまにやられていたものですわよねっ!娯楽機械と認識しておりますわ!」


「そう、だ、間違ってはない」


 間違ってはいないが娯楽機械なんて堅苦しいものでもないような気がする。

 今日でその認識を変えてくれると嬉しいな。


「早速何かやってみるか」


 俺たちはクレーンゲームの前まで来た。


「見ててくれ」


 俺は100円玉を入れて実際にクレーンを操作する。

 取る目標は猫のマスコットのような小さなキーホルダーの箱だ。

 俺はまず横列の狙いを定めてボタンを押す。


「ここだ…!」


 俺はすぐに手を離し、次に縦列の調節に入った。


「か、かっこいいですわ…!」


 美弦が何か言っているが気にせずに続け…1回目にしてそれを取ることに成功した。


「まぁこんな感じで、クレーンを操作してこの中に置いてあるものを取るゲームなんだ」


「一発でお取りになるなんてすごいですわ!げーむというものには色々と種類があるんですのねっ!」


 一発で取れたのはほとんど奇跡だったが、美弦にとって今のがわかりやすい例になったのであればそれは良かったな。


「試しに美弦もやってみるか?」


「うまくできるかわかりませんけれど、やってみますわ!」


「あぁ、せっかくだし他の台も見てみよう」


 俺たちは色々なところを歩いて回る。

 中には際どい服のフィギュアなんかもあったりしたが、ああいうのは大抵アームが弱かったりするため取るのはやめておくのが賢明だろう。


「あ、これとかどうだ?」


「…これですの?」


 この台はお菓子の代で、主にポッキーが入っている。


「あぁ、簡単そうだし初めてならちょうど良いだろう」


 ここでポッキーが欲しいなら直接買った方が安く買える確率が高い、なんていうのはタブーだ。


「…何かご褒美が欲しいですわ」


「ご褒美…?」


「もし私が1回目で取れた時のご褒美、ですわ!」


 ご褒美…慣れないことをさせられるんだ、確かに何かを求める気持ちはわかるが、それが達成感とポッキーではダメなんだろうか。

 …ダメだから言ってきてるのか。

 ご褒美…か。


「そうだな、婚約とか重いことはともかくとして今手近にできることで言う事をなんでも聞こう」


「っ…!今とおっしゃいましたか?」


「変な切り抜き方をするな?手近でできることで、だ」


「手近でできる事なら言う事を聞いてくださるんですのね?」


「…あぁ」


 少し言いすぎてしまったかもしれないが、いくらこの台のクレーンゲームが難易度が低そうだからと言って1度俺のプレイを見ただけで商品が取れるほどクレーンゲームは甘くない。

 そんなに甘いならゲームセンターにはクレーンゲームなんて存在してないだろう。


「私、少し小耳に挟んで気になっているものがございますので、もありますし、今日はそれを試してみたく思いますわ」


「1回で取れたら、だからな」


 俺は念押しをしておく。


「分かっていますわ」


 美弦はさっきの俺を見てすぐに理解したのか、財布から100円玉を取り出して、それを入れた。

 財布の中からとても高校生が持ち歩くような額じゃないお金が見えたことはスルーするのが安定だな。


「……」


 すごい集中力だ。

 ポッキーを狙う目は、まさに狩猟の如く、だ。


「……」


「…な!?」


 美弦は1発目でポッキーを取ってしまった。


「やりましたわっ!」


 そんな…1回俺のを見ただけでここまで完璧に理解するなんて、やはりその才覚は本物なのか。


「約束通り!私の言う事をなんでも─────」


「嬢ちゃんたち、何やってんの?」


「…え?」


 俺たちの後ろから、明らかにそっち系な男の人たちが話しかけてきた。


「何って…クレーンゲームですけど」


「へぇ、君たち高校生?」


「いきなりなんですか?」


 俺はあくまでも事務的に処理をするような態度を取る。

 なんなんだこの人たちは…やはりゲームセンターにはこういう危なそうな人たちも屯っているのか。


「実は俺たちお金に困っててさぁ、そこの嬢ちゃんの財布の中身が見えちゃってさぁ、ちょっと譲ってくれないかなぁって、ちゃんと返すから、さ」


 確かにあれは簡単に出して良いような額の財布ではなかった…もう少し警戒しておくべきだった。


「ちょっとでいいか─────ごふっ」


 美弦は2人をワンショットKOした。


「白斗さんっ!せっかくげーむせんたーに来たんですし、巷で有名なぽっきーげーむというげーむも致しましょう!」


「え、ポッキーゲーム…?」


 名前しか聞いたことがない。

 というかこの人たちは本当に無視なのか。


「教えて差し上げますわっ!目を閉じていてくださいまし!」


 そう言われたので俺は目を閉じる。

 なんだ…?一体何をするんだ。


「ん…?」


 俺の口に細いものが咥えられた。

 これは…ポッキーのようだ。


「そのまま食べ進めてくださいまし!」


 よくわからないが俺は言われるがままに食べ進め─────!?


「えっ…!?」


「初めての接吻…頂きましたわ!」


 …俺も美弦に別の意味でKOされた。

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