第34話 義姉の存在
「はっくんが出る時間!?私ももう出なきゃ!」
甘奈さんは相変わらずはしゃぎながら家を飛び出して行った。
「本当に元気な人だな…悩み事なんてないんじゃ無いんじゃないか?俺はこの前の失恋を間近で見てから少し機嫌が落ち込んでいるのに…」
なんてことを呟きながら家を出て、鍵を閉めた。
「白斗さん、おはようございますですわ」
「あぁ、おはよう」
家の前に出ると、どうやら美弦が俺のことを待っているようだった。
「美弦…?来てたなら言ってくれればよかったのに」
「いえ、白斗さんを急がせたくはありませんでしたので…白斗さん、今女性が家から出てきましたが、あの方は…?」
「あぁ、俺の姉だ、まぁ姉って言っても従姉妹で、義姉なんだけどな」
「…はい?」
「…ん?」
美弦は一瞬呼吸すら止めて体全体を固めた。
「どうした…?」
「義姉!?」
美弦は驚いているようだった。
…何をそんなに驚くことがあるんだろうか。
「前から従姉妹が泊まるって話はしてただろ?」
「そうですけど!義姉だなんて今まで一言も言っていませんでしたわよ!?」
「あぁ、まぁそんなに変わらないだろ」
「変わりますわよ!そんな方を今まで見過ごしていたなんて…過去の自分の甘さが許せませんわ…」
美弦は何かを悔いている様子だった。
「なぁ、本当にどうしたんだ?」
「知ってるんですわよ!」
「何をだ?」
「世間に疎い私なら騙せると思っているようですが、そうはいかないですわ、最近は義兄弟と称して半分恋人のようなことをする方が多いのでしょう!」
「するわけないだろそんなこと!」
「甘いですわ!少々お待ちくださいまし!」
美弦はスマホを取り出すと、すぐに何かを調べ読み上げる。
「今からニュース記事を読み上げますわ!…義弟と織りなす愛の話、義姉と行うちょっぴり大人な行為、これらが大人気!…と書いてありますわよ!ど!う!い!う!こ!と!なんですのっ!?白斗さんもこれに乗っかったんじゃありませんこと!?」
「それどう考えてもそれフィクションだろ!」
「フィクション…?そんなことどうでも良いですわ!」
「いや一番重要なところだろ!」
「フィクションだったとしても、そのような概念が今世間で話題になっているというのは事実、なのにまだ私と婚約を確約すらさせてくださっていないのにそのような状況に身を置くのはいかがなのでしょうか?」
「あのな、義弟と織りなす愛の話だとか義姉と行うちょっぴり大人な行為なんてことは現実にはほとんど存在しない、少なくとも俺たちはそんなことしていない」
どうして俺と甘奈さんがそんなことをしないといけないんだ。
「嘘ですわ!…今度、その方とお話しさせてくださいまし」
「え?」
「白斗さんの血縁者、悪いようには致しませんわ、ただ…もし白斗さんに良からぬ感情を抱いている場合は、それ相応の対応をしないといけません」
「わかったわかった、多分甘奈さんのことを見たらそんな感想も湧かなくなるから、見てもらったほうが早いな」
「甘奈…!?下の名前で呼んでるんですの!?」
「さんをつけてるだろさんを!ある程度の距離間は保ってるってことだ!」
「どうして上の名前で呼ばないんですの!」
「苗字は俺と一緒の空薙なんだから苗字で読んだら変だろ?」
「…確かにそうですわね、わかっていますわ、わかっていますわよ…!」
美弦は頭では理解しても感情がそれを看過できないと言った様子だ。
俺たちが校門に着くと、声がかかった。
「あ、先輩…おはようっす」
「あ、快…おはよう」
「どうしたんっすか?元気無いみたいっすけど」
「いや…その、前の、な」
「…あぁ、全然大丈夫っすよ、切り替えだけが取り柄なんで」
本当は大丈夫じゃ無いだろうが、表面上俺を心配させないためにこう言ってくれてるんだろう…本当に第一印象では申し訳ないことを思ってしまった。
「あ、天霧先輩も、応援してもらったんっすけど、失敗に終わっちゃいました…でもありがとうございました」
…え?
「あ…いえ、私は何もしていないので」
快は俺達に挨拶だけをしに来てくれたのか、挨拶を済ませるとこの場を去った…が、気になることがある。
「快と知り合いなのか?」
「いえ…どうやら彼はあのアイドルの方に恋をしているようでして、その近くにいる白斗さん、そしてその白斗さんの近くに居る私に恋愛相談をしてくれたので、私が背中を押して差し上げただけです」
「なるほど…」
まさか美弦も少し噛んでいたとは、驚きだ。
「…美弦から見てどう思う?告白されて振る方も罪悪感とかで大変だろうが、告白して振られた方って、あんなふうに元気にできると思うか?」
「私がもし白斗さんに婚約を断られたら躊躇なく自殺致しますわ」
「は…自殺!?」
「冗談ですわ」
「びっくりさせるなよ…」
やっぱり…そうだよな、今はそっとしておくのが正解か。
「…もしそんなことになれば、もう手段を選ばないだけですわ」
「え?悪い、何を選ばないって?」
「いえ、なんでもありません」
美弦は、何か見られたく無いものを笑顔で隠すように笑って見せた。
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