第36話 豪華客船

「こ…これのどこが小さいなんだ!世間知らずも大概にしろ!」


「は、白斗さん!?ど、どうされたんですの!?」


「どうされたんですのじゃない、どう考えたってこれ豪華客船とかそのレベルの船だろ!これのどこをどう見たら小さい船なんて表現が思いつくんだ!」


 パーティーと呼ばれるものの当日となり、いざその会場となるらしい船の前に来てみれば、おそらく平気で1000人以上は乗れるだろうことが分かる。


「え、こんなもの小さいんじゃ無いんですの…?本当に大きいものはこれの2倍は人が入ることができますわよ?」


「全然小さくない!」


「まぁまぁはっくん、落ち着いてー?」


「甘奈さん…!状況わかってるのか?」


「前も言ったけど私って一応読者モデルだし、はっくんにも私のこと見直させるくらいには大人っぽ〜いところ、見せてあげられるかも─────」


「甘奈さん、ちょっと待ってくださいまし!」


 2人は俺から少し距離を取ると、前のように耳打ちで会話を始めたようだ。


「本当に白斗さんに対して良からぬ感情は抱いていないんですのよね?」


「大丈夫だって、これは純粋に義姉としてたまにはビシッとしてる所を見せたいっていう姉心なんだから、安心しなくても美弦ちゃんのはっくんを大人気なく大人の魅力で奪ったりしないから、安心して」


「…別に、甘奈さんが本気を出したとしても、白斗さんは私のものであることに変わりないですわ」


「またまたぁ、本当は私が本気を出したらはっくんを取られるってわかってるからそんなに不安そうにしてるんでしょ〜」


「む…では、白斗さんと恋仲になる手伝いをしていただく前に、私と一つ勝負をしてもらいますわよ、正装をして白斗さんを魅了できた方が勝ちですわ」


「いいよ、大人気ないけど…本気で相手してあげる」


 2人は秘密話を終えたのか、耳打ちをやめて俺の方に近づいてきた。

 何を話し合っていたんだろうか。


「では、上がりましょうか」


「待ってくれ、この船…財界の重鎮とか居ないよな?」


「えぇ、少なくとも私に意見できる方は居ないと思いますわよ」


「それじゃなんの尺度にもならない!どの程度の位置にいる人が平均的なのかを教えてくれ!」


「平均…分かりませんが、平均月収10億円の方々がほとんどでしょうか、10億円なんて一般人でも頑張れば稼げる額ですし、大したことではありませんわ」


「10億…!?」


 俺は腰が抜けそうになった。

 10億なんてどう考えたって一般人じゃ頑張っても稼げない、本当に世間知らずにも程がある。


「白斗さん、何を恐れているのか分かりませんが、私が居る限り絶対に大丈夫です、私のことを信じられないんですの?」


「う…うーん…」


 信じたいところではあるが、美弦のこういったところに関しては今までで信じるに足る根拠が一切無い。


「白斗さん…!」


「わかった…そこまで言うなら信じる」


「ありがとうございますですわ!」


 …とは言え、おそらく俺が行く世界ではないことは確かだ、情けない話ではあるが常に美弦の背中に隠れることになるだろう。


「では、行きましょうか」


「あ、あぁ」


 俺たちは一緒に船に上がったが、緊張しているのは俺だけだったらしく美弦と甘奈さんは全く緊張などはしていないらしい。

 船に上がると、衣服室のようなところに通された。


「こちらから好きなお洋服をお選びください」


 女性の案内人さんが手を向けた方には、紳士服からドレスといったいかにも高貴そうな服がクローゼットに収められていて、隣には試着室らしく場所がある。

 おそらくはそこで着替えるんだろう。


「では白斗さん、おそらく私たちより白斗さんの方が早く着替え終わると思いますので、着替え終わったら私たちの試着室の前で待っていてくださいまし」


「あぁ、わかった」


 それから俺たちはまず服を選ぶことになったわけだが。


「…俺にこんなの似合うのか?」


 とは言え男性用の服はほとんどが紳士服しかなかったため、俺はそれを手に取る、色は黒と白の一番シンプルなのを選んだ。


「…あれ、これどうやってつけるんだ」


 服やズボンは順調に着ることができたが、ネクタイの付け方が制服とは違うようで全くつけ方がわからない。

 仕方なくネクタイ片手に試着室から出た。


「お客様、似合っておいでです」


「あ、ありがとうございます」


「良ければ、ネクタイをお付け致しましょうか?」


「え、良いんですか!?ありがとうございま─────」


「ちょっと待ってくださいまし!」


「え…?」


 突然美弦が試着室から声を張り上げた。


「ネクタイを付けるなんて絶好の花嫁体験を譲るわけには参りませんわ!」


「み、美弦…!?」


「ネクタイなら私が締めて差し上げるので私が着替えるまで少し待っていてくださいまし!わかりましたわね!」


「わ、わかった…すみません、どうやらそう言うことらしくて」


「かしこまりました」


 女性の案内人さんは小さく笑っている。

 …子供のようなところを見られて少し恥ずかしいな。


「私着替え終わった〜!」


 まずは甘奈さんが着替え終わったらしく、試着室から出てきた。

 果たしてどんな格好でこの絶対に敷居の高いパーティーに臨むつもりなんだろうか。

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