第26話 誘拐

「アルド、緊急エネルギー転送!」

 吾輩は、参謀総長の胸に飛び込んだのにゃ。通常であれば、アルドから了解した旨の返事があるが緊急手順なのでその辺も省略され無言で我々と一名が回収されたのにゃ。


『船長、帰還お疲れさまです。乗員に登録していない者は隔離します』

 吾輩は、船に戻って初めてアルドからの言葉を聞いたのにゃ。


◇◇◇

 宇宙船太陽系マンズーマ・シャムセイヤ制御室 


 吾輩たち上陸班は、宇宙船太陽系に諸々の手順をすっ飛ばして帰還したのにゃ。一名の捕虜を連れて。


「ふむ。アタル帝国の侯爵にして元帥である現役の参謀総長を誘拐とは、やるねぇ流石は伝説の船長だ。いちいちやることが、壮大な物語みたいだ。好きだよ、こういうの私は」

 ヤン・リン・シャン参謀総長が制御室に入って来ると笑いながら言ったにゃ。まあ度胸があるのはいいことにゃ。


『隔離処置を終わり武装解除していますが、捕虜を自由にするのは船の保安規定からしても好ましくありません。二十四時間監視の要があります』

「わかったよアルド、吾輩が密着監視しているから安心していいにゃ」


『ふう、それが一番あてになりませんのに。精々、情に絆されませんように。非常事態のときは、躊躇なく斬って捨てて下さいね』

「おいおい。捕虜とはいえ遠方からの来客にちょっと冷たすぎないかい、そちらの有能そうな女性はさあ」


 参謀総長が悪戯っぽく吾輩に同意を求めるが止めて欲しいにゃ。女同士の諍いに紳士は踏み込まないものにゃ。


「こちらは、アルド。本船の超優秀な制御AIにして会社の万能受付嬢にゃ。参謀総長には、急遽身を隠す必要があったので本船にお連れしたにゃ。まあ、しばらくの間お互い仲良くして欲しいにゃ」


『中帝国軍参謀総長ヤン・リン・シャン元帥、ようこそ太陽系へ。私は本船の制御AIアルドと申します』

「これはご丁寧にお世話になります、アルド嬢」




◇◇◇

 惑星ダンキン首都ナツード ヤン・リン・シャン侯爵の館


「良いか、先ほどのことは一切他言無用。参謀総長殿は、急の病でしばらく公務をお休みしていただく。見舞客については全て丁重にお断りすること、良いな!」

「承知いたしました、バンパネラ侯爵様」


 執事が話が分かるタイプで良かったわ、最近頻繁に侯爵に呼びつけられていたからある程度信頼されてるという感じが伝わっていたのが幸いしたのね。


 ふう、いきなり後は任せたとか言われても・・・・・・ 困ったものね参謀総長の気まぐれには。しかし流石ね、伝説のネコ船長はあの短いやり取りで膠着状態を抜け出す道を示してくれるとか。


「さあ、わがままなお嬢様の尻拭いに勤しむとしましょうか」




◇◇◇

 惑星ルッズ コメッコクラブ大統領官邸

 

「ふーん、中帝国の軍参謀総長が病気で館に引き込もっているですって。その情報は何処から?ええ、そう ・・・・・・ だったらその工作員はすぐに切りなさい。

 え?あんた、馬鹿?そんなこともわからないの。いいから、言われたとおりになさい、あなたに考える力がないんだったら行動だけでも国家に奉仕しなさい!」


 大統領は、ピンクのステージ衣装のまま受話器を置くと溜息を吐いた。 


 ふう、ほんと馬鹿ばっかりで疲れちゃうわね。それにしてもあの参謀総長、妙に思い切ったわね。

「こうなったら、資源の回収を早めるしかないわね。奴らにペースを速めるように指示を出しなさい。それと、いろいろと嗅ぎまわってる連中が居るみたいなので注意するように言ってね」


「わかりました」


 大統領補佐官は、深々と頭を下げるとすぐさま取引先に指示を伝達した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る