第41話 ステーキハウス
あまり繁盛していないステーキハウスがあった。
「こんにちは~ 表の張り紙を見たんですけど」
「張り紙? ああ、バイト募集の奴か。悪い悪い、剥がすのを忘れていてね」
若い女性が見る間に落胆し、藁をも縋るかのようにこちらを下から覗き込んできた。ふむ、何とかしてやりたいけど。最近は客足が悪くなってあまり余裕がないんだよなあ。
「えっと、私これでも結構お客さんを連れてくるの上手いんですよ。お試し期間で一か月無料で結構ですから。私の働きぶり、成果を見ていただくだけでもいいですから。お願いしますよ」
うーん、そこまで言うのなら一か月だけでも雇ってあげようかな?なんだか、放とけないしなあ、良いこととすれば回りまわって俺のところにも還って来るかも知れないしな。
「うーん、底まで言うならまずはお試しで一か月来てもらおうかな?」
「はい、ありがとうございます。私、ローラと申します。店長さん、よろしくお願いしますね」
うん、感じのいい娘だな。
「ああ、よろしく頼むね」
翌日、朝からテンション上げ目でローラさんが今日は色々口コミで友人知人その他を総動員して客を呼んでくれたそうだ。まあ、その気持ちが嬉しいよね。例え一人も客が増えていなくても… …
「店長、満員でお客様を案内できません。持ち帰り用のステーキ弁当とステーキサンドを急遽用意しましたが、良かったですか?」
「うーん、よく用意出来たね。本当は、容器について衛生管理の問題とかあるから持ち帰りはしたくなかったんだけど。うちの食材はとても新鮮な物を使っているから大丈夫だろう」
「はい、お客様はみんな喜んでお買いあげ頂けました」
ふう、ここまで客足が伸びるとは?! ローラさんて何者なんだ?
「店長、それで試算してみたんですが。明日の仕入れは今日の倍量必要だと思います。仕入れの手配とか大丈夫ですか?」
ローラさんが、スマフォで示してくれた資料を見ると確かに今日の仕入れ量だと夕方の早い時間で売り切れるみたいだ。うん、予約状況も順調すぎるしなあ。
「ここは、店長としての腕の見せ所かな。大丈夫付き合いの長い、仕入れ業者に交渉してみるから」
「はい。頼りにしてますよ、店長!」
俺は長年仕入れをお願いしている凄腕のバイヤーに連絡を取った。
「ヤスさん、はい。そうなんですよ、急で悪いんだがいつもの倍量仕入れる必要が出てね。
ふむ、その新しい産地の牛は?え? そんなに安くなるのかい、でも。ここはヤスさんを信頼して、じゃあそれでお願いしますよ」
ふーむ、この段階で新たな食材か。だが尻込みしている場合じゃない、やってやるよ。うちのソースに合う品質ならいいんだが?
そして、毎日が戦場のような状態で前日の仕入れの倍量をこなす日々はわずか十日でローラが来る前の千倍以上になっていた。そして… …
「店長、フランチャイズ店が当初の目標である五百店に到達しました。おめでとうございます!」
「ああ、これもローラさんがうちに幸運を持って来てくれたおかげだよ。本当にありがとう!」
◇◇◇
コメッコクラブ大統領官邸 会議室
グリーンのスーツ姿のアルカナ・グリーン、内務長官の残念な報告が続く。
「うちの次代の主力として品種改良を重ねて来た高級牛肉の売り上げが、芳しくない状況です。
その他として気になる点はコーヒー豆と小麦の生産地図が変化しているのが若干引っ掛かります。ただ、その二点については元々我がコメッコクラブに主生産地がないので新たな産地の台頭なのか、一過性の動きかも推測できません」
ピンクのスーツを着た大統領が、頬杖を突きながら呟いた。
「この手のことは、得意な所にアウトソーシングするのがいいわよね。まあ、先方が面倒そうにするでしょうけどね」
◇◇◇
『船長、ご指名ですよ。例のピンクの大統領から』
嫌な奴の名を聞いたなあ、吾輩は背中の毛が総毛立つのを感じながら船長席の上に飛び乗るのだった。
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