第42話 嫌な会議
◇◇◇
取り敢えずコメッコクラブに出向くと面倒臭いことが決定しそうなので、お互いの面子を潰さない配慮のもとVR《仮想現実》チャット会議を開くことにした。
「ネコ船長、早速お時間を頂いてありがとうございます」
「まあ、面倒くさい挨拶とかは置いといて、本題に入って欲しいにゃ。気付いているかは知らないけれども、こっちとしてはあまりコメッコクラブと付き合いたいと思っていないのにゃ」
吾輩は歯に衣を着せぬ態度で、本題に進んで欲しいと主張したにゃ。
ピンクの大統領は、額の血管をぴくぴくさせながらも穏便に担当者に場を任せたのにゃ。
「国務長官を務めています、アルカナ・グリーンです。船長は、政治的な湾曲な表現よりも単刀直入がお好みの様ですのでできるだけご要望に沿うようにしたいと思います」
「そうしてくれると、ありがたいにゃ」
ふむ、チカチカするピンクから眼に優しいグリーンに変わって癒し効果までありそうだにゃ。
「先日、船長にお出しした我が国が革新技術と伝統を融合させた一推しのあのブルーレアで食べて美味しい牛肉が、どこの馬の骨かもわからないポッと出の産地の牛に押されて風前の灯となっております。
どうか船長のお力添えで、この不当な圧力を解除して頂きたいのです」
「しかし、船長が解決するとそれこそゴリ押しの依怙贔屓にしかならない気がしますけどね?」
白衣に伊達眼鏡をキラーんとさせた、うちの科学主任ネコさんが苦言を呈したにゃ。
「ですが、味、栄養価、品質、無菌で育てた安全性、どれをとってもうちの”夢の箱入り牛”の方が銀河のためになりますよ」
ふむ、自国産の製品に惚れ込むばかりに客観性に欠けているにゃ。
「むう、確かにあのブルーレアのステーキが食べれなくなるのは残念だが。国務長官は、国産愛が勝過ぎて客観的に事象を見れなくなっているようだにゃ」
「ネコ船長、レアで良かったですね?はい、これが噂のステーキハウスからテイクアウトとしたステーキ三百グラム、焼き具合はレアになります」
おっと、なかなか香ばしく焼き上げられたステーキが吾輩のもとにサマンサによってサーブされたにゃ。小ぶりのステーキサンドも付けてあるのは小憎らしい演出にゃ。
「うん、美味しいにゃ。これがコメッコクラブの”夢の箱入り牛”の十分の一なら、それは皆が買うだろう。
ステーキサンドも旨かったにゃ、パンが抜群に美味いにゃ」
吾輩の絶賛を受けて、アルカナ・グリーンは蒼白にサマンサは満面の笑顔だったにゃ。
「そうね、肉質、焼き加減、ソースどれをとっても一流のシェフがいい仕事をしたと誇れるものね。これが安い値段で手に入るのなら、”夢の箱入り牛”が同じ土俵に立つのは難しいわね。
もう、シェアを拡げるのなんて諦めて高級化路線で行くしかないでしょうね」
うちの科学主任も匙を投げ気味だにゃ。
「悔しいわね、折角ヴィーガンとかの阿呆な奴らを肉食の方が効率的だと証明して叩きのめしてきたのに。
また地道に一流の肉は、一流の人を創るとかキャンペーン張るしかないのかねぇ」
国務長官が悔し気に、唇を噛む。
「あとは、同じステーキで勝負するんじゃなくて、焼肉で闘ってはどうかにゃ?」「焼肉って?あの、小間切れにした肉をちっちゃな網で焼いて醤油とか味噌ベースのタレを付けて食べるアレのこと?
なんだか、貧乏臭いわね?」
「アルド、適当に
食わず嫌いなアイドルに、ホルモンの真価を見せてやるにゃ」
『了解、船長。では、皆さま”夢の箱入り牛”には敵わないと思いますが、標準的な焼肉店で出されているホルモンセットをお試しください』
吾輩も少し大人げないが、伝家の宝刀を抜かせてもらったにゃ。まあ、女性ばかりなので
「こ、これは。胸腺が美味しいのは古今東西誰でも知るところだけれど、肺のフワフワした食感と淡泊な味も上品で美味しいわ。
それに牛の胃袋が四つあるのは知っていたけれど、各部位毎に全然違うのね。低温調理された肝臓の刺身はもう絶品ね。
これは、戦略に取り込む必要性があるわね。大統領、今回のレシピを研究して今後の”夢の箱入り牛”普及戦略に活かしたいと思います!」
国務長官の胃袋、いや闘志に火が着いたようにゃ。
「そうね、どれも美味しいわ。これは一考の余地があるわね。ネコ船長、素晴らしいアドバイスをありがとうございます」
ピンクの大統領が、頬を上気させて大興奮で感謝を述べてきたにゃ。
「うむ、役に立ったのなら嬉しい限りにゃ。アルド、料金は安めに見積もってあげてくれにゃ」
ふう、何とか面倒臭い業務を回避できそうでこのときの吾輩は有頂天だったのにゃ。
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