第43話 贅沢のツケ

 ”街の名もなきパン屋”が今、熱い!

 どこかの情報番組が特集を組みそうな状況まで、色々事態は変化している様で。


◇◇◇

 太陽系マンズーマ・シャムセイヤ制御室


 ずらりと並んだ、パンとコーヒー類が一人の女性によって品評されていく。味が途轍もなく良いとか、香りが今までになかった香しさを備えているとか。バターの質がどうとか。


「ふむ、しかし一体なんでアタル帝国参謀総長がうちの船で謎の名店の品評をやっているのかにゃ?」

「まあ、ネコ船長と私の中ではないか。そのような些末な些事に気を取られるなよ。何でもこの間、コメッコクラブの連中とVR会議を開いて牛肉の料理の品評会をやったそうじゃないか。

 だったら、ネコ船長とより親しい私が直接船に乗り込んで接待を受けるのも当然のことじゃないか」


 何がどうなったら、そういう結論に成るのか凡人には理解できない思考回路じゃにゃ?


「まあ、それは兎も角確かに”街の名もなきパン屋”の各種パンが美味しいのは確かだにゃ。

 それで中帝国の小麦の生産に影響が出ているのかにゃ?」


 帝国軍参謀総長の顔が真面目に切替わったにゃ。


「あっ、やっぱり解かっちゃうかい?まあ、それでこそ僕がライバルと認めたネコ船長だ」

「うにゃ?色々面倒なので、雑音はフィルターに掛けるとして。どんな塩梅なのかにゃ?」


「そうだね、問題はあのパンが美味し過ぎるということだね」

「別に美味しい分には、良いと思うけどにゃ」

「ああ、そういうことね。一度美味しいモノに慣れた国民は、昔の不味いモノには戻れないのよね」

 白衣に伊達眼鏡の科学主任、ネコさんが何時ものように解答に辿り着いた見たいにゃ。


「まさしく、そうだね」


 帝国軍参謀総長が語った内容をまとめると、こういう事だったにゃ。


1 帝国民が”街の名もなきパン屋”を切っ掛けに美食に目覚めてしまった。

2 例のパンに使用する小麦粉は、従来の種類とは異なっていた。

3 現在、大規模に小麦の種類が新品種に置き換わっている。

4 新品種の小麦は、耕地面積に対する生産性が低かった。

5 このため、年内は問題ないが数年後に食糧危機が訪れる可能性が極めて高い。6 既に、小麦を廻って小規模の局地戦が発生している。

7 一度、新品種に置き換わった農業地域では旧品種の栽培に戻せない。


「ふむ、色々問題を抱えて内政ゲームに勤しめるとか楽しそうにゃ」

「ふっ、人の命に係わらないゲームの世界ならいいんだけどね。各国と生き残りを掛けたゲームになりそうだよ。無論、負けてやるつもりはないんだけどね」


 ふう。冗談めかしているが、参謀総長の眼が笑ってない。これは、ヤバいかもにゃ?


「なるほどね、小麦、牛肉、コーヒー等ね。主食と嗜好品で帝国の、いえ、各国の屋台骨にひびが入ってきている訳ね」


 参謀総長は、肩を竦めると呟いた。

「ああ、極小さなひびだから。まだ僕以外は気付いていないと思うよ」


 ほう、まあ各国はそれぞれの事情が異なるので食糧事情に反応するのにも早い遅いがあるのだろにゃ?


「あのパン屋のハニーバタートースト一つ取っても小麦粉だけでなく、やれ蜂蜜がどうとか、上等のバターには、高品質のミルクが、他にも高級な砂糖がと様々な贅沢品がリストアップされてくるのだよ。

 そして、高品質だが生産性が低い。言い換えれば旨いが飢えさせる穀物のシェアが増えているのだよ。

 これが単なる偶然なのか?何者かが意図した陰謀なのか?僕は一連のブームに一人恐怖していたのだよ。

 だから、偶には羽目を外して美味しいモノを堪能したいのだよ!」


 参謀総長の魂の叫びが、見る者に哀れを感じさせる。流石に役者が違うのにゃ!

「戦争さえ起こさなければ、問題はないはず… …」

 サマンサが、醒めた眼差しで参謀総長を見つめながら独り言を言うのを吾輩の耳は逃さなかったにゃ。風雲を告げる嵐の予感か、また面倒事が吾輩に迫って来るのかにゃ?

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