第44話 収奪農業

『はい、ご用命ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスです』

「… …」


『はい、現在キャンペーン中ですのでお安くお引受けできますよ』

「それでは、何分よろしくお願いします」


『船長、ご指名入りました!』


 うえー、アルドの元気いっぱいの宣言に吾輩は精一杯の嫌悪を込めて背中をぶるぶるさせたのにゃ。

「ふぅ、一体どんな依頼なのかにゃ。本当は聞きたくないけど、聞かしてくれにゃ」

『はい、喜んで』


「あ、僕は立場上聞かない方がいいのかな?」

 さっきまで、傍若無人にパン等の品評会を繰り広げていた人とは思えぬ程の気遣いを見せるどっかの参謀総長だが、今更だと思うにゃ。

 アルドも、そんな些事には無頓着に続けたのにゃ。


『今回の依頼内容は、こういった感じですよ。船長』


1 ブランド高級牛肉の凍結受精卵を盗んで売買している組織に対してしかるべき対抗措置


2 高級ブランドの葡萄苗木を盗んで売買している組織に対してしかるべき対抗措置


3 高級コーヒー豆を盗んで売買している組織に対してしかるべき対抗措置


4 高級小麦の種子を盗んで売買している組織に対してしかるべき対抗措置


5 高級カカオ豆の種子を種子を盗んで売買している組織に対してしかるべき対抗措置 


6 その他、盗んだ○○を売買している組織に対してしかるべき対抗措置


「ふうむ、五項目までは具体的なのに最後は付け足したような依頼になっているにゃ。まあ、対抗措置については全部こっち任せみたいだけどにゃ?」

『確かに、そこの辺りは依頼主さんも混乱しているのかしら?』


 折角押し掛けで、帝国の参謀総長が来訪しているのだからその知識を借りてみても罰は当たりまい。


「ところで、アタリ帝国の穀倉地帯はどんな感じなのかにゃ?軍事機密に抵触しない程度に教えてもらえると有難いにゃ?」

 

 おっと、急に俄然やる気を出したみたいにオーラが輝いてきたにゃ。


「ふむ、そうだね。まずは、何と言ってもクライナ共和国が小麦の産地としては産出量、質においてもとても高いよ。

 最近、急に注目されだしたのが惑星チルノーだね。例の”街の名もなきパン屋”で使用されている小麦の産地がここの北半球だという噂が広がってきていてね。

 因みに南半球では良質の牛肉の飼育とコーヒー豆の栽培をやっているらしいね」

「ほう、コメッコクラブの秘蔵っ子の牛を追い払ってしまったのは惑星チルノーの牛なのかにゃ。一応、焼肉で闘えばとアドバイスしておいたんだがにゃ」


「ちょっと、待て。その焼肉というのが知りたい。どうにも、今すぐに!」

 なんか、また食欲にスイッチが入ったのか?探求心か知らないにゃ?


「アルド、適当にホルモン焼肉セットを参謀総長にお出ししてくれにゃ」

『かしこまりました。参謀総長、このタレに付けてお召し上がりください!』


 うおー、という叫びにも似た音とともにホルモン焼肉セットが瞬く間に消えていったようにゃ。みんな、ホルモン好き過ぎにゃ。


「おっ、これは胸腺シビレか。たしか、船長の故郷の星で十六世紀、当時の先進国だったイタリアのメディチ家の令嬢が後のフランス王に嫁いでからフランス料理でも食べられるようになった高級食材だね。

 ほう、味わい深く柔らくて美味しいね!」


 な、なんてところまで博学というにもほどがあるにゃ!

「中帝国にまで、そんな話が広がっているのかにゃ。参謀総長の知識には恐れ入るにゃ!」

「それほどでもないさ、伝説の船長の星の歴史は我々の憧れだからね。特にネコ船長と知り合ってからは、復習に余念がないのは内緒だよ。あ、はっはは」


 まあ、無邪気に笑う仕種とか。ちょっとばかしは可愛く感じるところが抜け目なさなのかにゃ。人垂らしの才能は途轍もないにゃあ。




◇◇◇

 ベアタッカー特殊攻撃船


「やはり、ダイエットには肉を喰らって運動するに限るわね。あの、”街の名もなきパン屋”のパンはどれも美味しいんだけど… …」

「そうね、あれを毎日お替りしていると。体重が増えて仕方ないからね」

「そりゃ、あれだけふんだんに蜂蜜とバターを掛け捲ってニキログラムも食べてたら太りますって、お姉さま」


 白髪の美女が三人、仲良く盗れたばかりの高級牛肉のグリルを食していた。


 彼女たちが、新しいベアタッカーの指導者であった。

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