第36話 逃げるのも悪くはない
ふむ、面倒臭い奴がテンション高めで来るとか災難以外の何物でもないにゃ。
「二人とも、死なない程度に賃金分働くにゃ!」
「もう、あたしらのこと好き過ぎでしょうが。ここは、あたしが命を張って時間を稼ぐから旦那は目標を連れて逃げてちょうだい。
今度あの世で逢ったら、いい酒でも奢ってくれればいいからさ」
「御屋形様、それは生き残れれば倒してしまってもよろしいということですよね。承りました。この藤林千代女、秘術の限りを尽くそうとも見事敵の
ガタイのいいメアリーが自信無さ気に、命懸けで時間稼ぎをすると言うし、女忍者の千代女は討ち取った見せると気概をあげるし。もう、なんでこれくらいのことで大切な命なんかを賭けるのかにゃあ?
「ふっ、手下に守られて逃げ帰るか。伝説の船長とはその程度の漢だったのか?」 ほら、だからこんな感じでテンション上げて来るから。嫌なんだよな、力が正義みたいなのはにゃ。
ゲインが、奥の手を使った?急激に筋肉が膨張し人間から熊へと変貌を遂げたのだ。
ゲインの後ろからメアリーの逞しく太い腕が回されたが、熊の腕には敵わなかった。メアリーは片腕を引き千切られ、壁に頭をぶつけて意識を失ったようにゃ。
花弁が舞い、蝶が舞い踊る。これだから女忍者は怖いにゃ。ゲインの力が幾分削がれたのか千代女の苦無が縦横に熊の毛皮を切り刻む。
「くっ、やはり筋肉オカマよりお前の方が強いと言うことか?だが、それだけだ!」
ゲインが、熊の両腕を振り回し部屋がボロボロに削られていく。千代女の忍装束も所々引き裂かれ、赤い血が撒き散らされていく。
「止めだ、うぉーい!」
ゲインの熊の腕が一際速度を上げて、千代女の首筋を狙って伸びて来た。誰もの脳裏に千代女の首が吹き飛ぶ様が描かれてしまった。
飛び散る赤い血と、黒い何か?
思わず吾輩が、千代女とゲインの間に飛び込んでしまったが故の出来事だった。そう言えば昔、誰かが言ってたにゃ、”銃と的の間には立つな”と。守らなかった代償が吾輩の左前脚にゃ、さらば吾輩の黄金の左腕よ!
「御屋形様! 私なんかの為に、大事な腕を盗られるなどあってはならないことです。千代女は、いったいどうこの恩をお返しすればよいのでしょうか?」
「ふっ、そう気を落とすな。主従仲良くあの世に送ってやるから、あっちで色々サービスでもしてやれば良かろう。へっ。」
「この、下種が意地でも私の秘術であの世に送ってやる!」
なんだか、千代女に変なスイッチが入ったみたいにゃ。
千代女が苦無を二本出して両手でそれぞれ握ると攻撃を繰り出した。吾輩は、ゲインに斬られた左前脚を慎重に咥えたにゃ。
千代女とゲインの攻防が目まぐるしく入れ替わっていた。だが、無尽蔵の熊の力と訓練で培った速度では女忍者とは言え千代女の方が分が悪かった。徐々にゲインに押し切られ有効打を当てることも出来なくなってきた。
既にガチムチ筋肉のメアリーが意識を再び取り戻すのは無理そうな状況だった。熊の太い腕が千代女の頭を捻り潰そうと凶悪な力を伴って襲い来る。
「猫の手だったら貸してやるにゃ《イン・シャー・アッラー・キットゥ・ カフ》」
吾輩は先ほどまで咥えていた左前脚をゲインに向かって全身の力を使って勢いよく投げると呪文を唱えたのにゃ!
熊の怪力を誇っていたゲインが疲れ果てた老人のような動きで、ふらつきながら熊から人の姿へ変貌を遂げ千代女に弱弱しくポンコツに殴りかかった。
あまりの衝撃の少なさに一瞬驚いた千代女。
「何をしておる、さっさと斬るにゃ!」
吾輩の叱咤激励に我を取り戻した、千代女が二本の苦無をゲインの脳天に深々と突き刺してようやく二度目の救出作戦は幕を閉じたのにゃ。
「ふう、
「了解、船長。お疲れさまでした」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます