第8話 定期報告会

『はい、ご用命ありがとうがございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスです』

「・・・・・・」



◇◇◇


『船長、皆さん集合してお待ちですよ。早く来てくださらないと会議中、おやつ抜きにしますよ!』


 ふにゃあ、それはまずいにゃ。のんびり顔を洗ってる場合じゃないにゃ、おやつのない会議なんか拷問みたいなもんにゃ。吾輩は、普段なら念入りに前脚の毛を舐めたり自慢の黒毛の艶を楽しみながら毛づくろいをするのを止めて船長キャプテン席へ急いだ。


「諸君、揃っているようだにゃ。では、始めてくれアルド」

『はい、今期の定期報告会を開催します。命によって司会は私が実施します』

 アルドが、定期報告会の司会を務めまず表稼業の収支説明を担当者として説明するのをおやつが来るのを待ちながら聞いているとサマンサがお茶を持って来てくれたにゃ。


 ふむふむ、順調そうで結構だにゃ。


 表稼業は主に下記のような業務内容になっているのにゃ。


 経営コンサルタント業務:アルドが片手間に上は星間国家から下は独立企業までそれぞれのレベルにおいて開発、経営、貿易等の様々な諸問題に対し、結果予測を提示しながら解決策を提案する業務にゃ。

 ただし、あくまでも提案するだけで選択と実行は経営者(又は政府)の仕事なのにゃ。


『次に開発状況の報告を科学主任、お願いします』

霊子レイスウォレットの所有者探知機の開発状況は、三十パーセントです。主な問題点は、匿名性を担保する認識阻害障壁を回避する手段を発見できていません。ただ、オーナーである乱導 竜氏のウオレットから霊子の授受が行われていることは確認できていますので生存は確実です。次に ・・・・・・」


 ご主人を探す装置の開発は難航しているにゃ。所有者の特定までは、できるがプライバシー保護の観点から位置情報の取得ができないようになっているのだから仕方ないのにゃ。

 うぉー、こう来たにゃ。


 皿に乗せられた一辺六センチメートル強の純白の立方体が、眩しい。気を落ち着けて早速切ってみると、やや黄色がかった白色、焦げ茶色、薄茶色の織り成す三層が美しいにゃ。

 もう我慢できないにゃ、全体の七割を占める上質のミルクを使用したホワイトガナッシュ、残り二割がその下のミルクチョコレート、土台として一割がしっとりとしたブラウニーが受け止めている。口に入れると蕩けて混然一体として魂を涅槃に誘うような心地にゃ。


「ほう、至極のカレ・オ・ショコラ、恐ろしい子にゃ!」

(確かに。お取り寄せした甲斐があったわ。しあわせ)


『こほん、情報部から気になる報告が上がってきています。アタル帝国の技術開発部で何らかの問題が発生したらしいのですが、秘匿レベルが高くてハッキングでは真偽が掴めません』


 表稼業を営む関係でアルドには、国家レベルの情報から市井の井戸端会議・噂レベルの情報まで入れ食い状態にゃ。これらの雑多な情報を分析処理する独立した情報処理を行う自分の中の別人格をアルドは、『情報部』と称している。

 情報は運用部門と独立して存在すべきという昔ながらの方針を踏襲採用しているとのことにゃ。


「うぬ? アルドがハッキングできないなら、誰にも不可能なのではないかにゃ?」


『いえ、ハッキング自体は可能なのですが該当データが最初からコンピュータに入力されていないのです。よほどセキュリティ・レベルが高いのか単なる与太話なのかだと思われます』


 

「ふうむ、あの優秀な参謀総長のことだから秘匿のためコンピュータにも入れずに自分で処理しているのかも知れないにゃ?

 一応、注意して監視を継続して欲しいにゃ」

『了解です。本日の報告内容は以上です。ちなみに、参謀総長の氏名が判明しました。ヤン・リン・シャン元帥、帝国貴族で爵位は侯爵です。船長、他になにかございますか?』


「ヤン元帥か ・・・・・・ 気になるにゃ。気付かれぬように動向を注視しておいてくれにゃ」


『了解です、これを持ちまして本日の定期報告会は閉会します。お疲れさまでした』

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