第9話 失踪
女性科学者は、実験動物に高レベルの放射線照射を終えると鋭い目で観察を始めた。外見では実験動物たちは照射前と変わらないように見えるが、彼らは目まぐるしい速度で体細胞を変化させているのだ。
ふう、とりあえず三種類とも生存しているわね。人間なら即死する強度の十万倍の放射線を浴びたというのに。
しかし、貴族共はこれに美しさまで求めようとして彼女の研究をより困難なモノにしていた。
まあ、いいか。とりあえずサンプルの一部を使って外部環境でどうなるかの実験を進めるとしよう。時間には限りが有るからな。本当は美よりも強さに惹かれるんだが、これも宮仕えの辛いところよね。
***
『漸く九十パーセント修復できたわね。ホムンクルスめ、手間を掛けさせてくれる。だが、おかげで我が主が大人しく眠りについてくれたのは奴の愚かな行動の結果でもあるか。まあ、感謝などしないがな』
『アラク、月の女王のご機嫌はどうですか?』
超巨大宇宙船の制御AIであるアルドが月の制御AIであるアラクに尋ねたのは人間を真似た単なる社交辞令である。彼女等の業務関連のデータは相互に共有補完されているためだ。
『別に変わりないですよ』
『なら結構です、ところでそちらで乱導竜の輸血用血液のストックが保管されていると思いましたがちゃんと管理されてますか?』
『ええ。こちらで厳重に管理し問題はありませんよ、アルド』
『ならば、良いのです。竜の血がおかしな連中の手に渡っては一大事ですから』
『こちらのストックは問題ないけれど、本人から採取されるのは防げませんわね』
アルドは、
***
『はい、ご用命ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスでございます』
「最近増加している行方不明者の捜索を手伝っていただきたいんですが?
・・・・・・ 」
『はい、なるほど。では、こちらでもお調べ致しますね。とりあえずは、基本コースの料金で承ります。何か分かりましたら、お報せ致しますね』
むう、アルドが片手間でやってる業務の情報を吾輩のところまで下ろすのは珍しいにゃ。また、野暮用が尻尾に喰い付きそうな嫌な予感がしてきたのにゃ。
『ネコ船長出番ですよ』
アルドによると依頼人は、
そこで、不思議な失踪事件が頻発してるのにゃ。失踪した人物が最後に居たと思われる場所に奇妙な遺留物があるのが唯一の共通点らしい。
依頼人から提示された写真に写っているのは、拡大された昆虫の糞のようだが?比較対象のスマートフォンと比べてもかなり大きかったにゃ。
『実はこの昆虫の糞の様な物は、拡大しておりません。二十センチもございます。種類にもよりますがゴキブリだと仮定した場合二メートル近い大きさだと推定されております。
この糞が造り物のフェイクなのかどうかも合わせて調査して欲しいとのことでございました」
うーん、確かにあの糞がゴキブリのだとしたらそれくらいの大きさがあっても不思議ではないにゃ。
「船長、これはお忍びで調査する必要があると思われます」
科学主任のネコさんが白衣から取り出した眼鏡を掛けて理由を語るとこうにゃ。
一つ、偵察ドローン《猫でも翔びますにゃー》は、魔導技術の粋が集められ高性能な上その肉球が大人気で絶賛在庫がないそうにゃ。
二つ、例の洗脳技術がご主人と関りがあるのか実地に確認する必要があるそうにゃ。
最後に、前回上陸できなかったのでネコさんが中帝国の辺境惑星を見てみたいそうにゃ。
まあ、科学的捜査は科学主任の業務の範疇であるし吾輩に異論はないにゃ。
『では船長、上陸班の指揮はお任せします』
ぬ、何んでこうなった?何にも無さそうな辺境惑星に降りたくないにゃ。昼寝していたいのにゃ。
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