第18話 イリュージョン
『はい、サマンサさん。動きがぎこちないですよ。では、もう一度始めからやりますよ』
船内の訓練室で脱出マジックを披露するネコさん、ノリノリで想定上の観客に流し目を送っているにゃ。アシスタントのサマンサがまだ照れた表情で演技しているのとは対照的にゃ。
妖艶な魅力と堂々とした演技で観るものを引き付けるネコさんに対して初々しい演技で観客の保護欲を掻き立てるサマンサ。これは贔屓目に見なくても、人気が出る筈にゃ。だというのに、なんでこうなった?
『船長、そこです。空中で一回転、炎の輪を潜って的にナイフを投げて!』
はあ、はあ。ふう。な、なんで猛獣の芸とナイフ遣いの真似事をしないと駄目なのにゃ?
「船長、惜しかったです。次、頑張ってください!」
サマンサが応援してくれるのは、嬉しいのだがにゃ。
「そうね、少し体を絞れば動きにキレが出るわね。今日からおやつはダイエット・クッキーに変更ね」
おお、それだけは止めてくれ。吾輩の至福のおやつタイムを無粋な減量クッキーなどに邪魔されたくないにゃ。仕方ないここは、少し本気を出すとするかにゃ。
『はい、みなさん大変いいですよ。上手く出来たところで、休憩にしましょう。では、本日のスイーツは熱い緑茶と冷やした和栗大福です。どうぞお召し上がりください』
「ふふ、小豆の餡とは一味違った栗餡の甘さがいいわね」
「わー、ほんと極上の栗を食べてる感じ。これ、大好きです」
ふむふむ、二人とも大絶賛のようだにゃ。吾輩も熱ち、猫舌にはまだ熱いにゃ。だが、ここで冷たい栗大福が復活させてくれるはず。
おお、この求肥は色が若干茶色掛かっているにゃ? そうか、求肥に渋皮煮の煮汁が混ぜてあるのにゃ。なんとも心憎いにゃ、中身は? 栗餡に刻んだ栗の甘露煮が混ぜてあるにゃ。まさに、上等な栗だけを食べているかの様にゃ。これは上手いのにゃ。
「では、もう一つ。あれ?」
「船長、駄目よ。これ以上の不要なカロリー摂取は科学主任として見逃せない、作戦の成否に関わる重要な失態を招く恐れがあるわ。だから、ここは私が・・・・・・」
「あれ、あんなに美味しいのにまだ残ってる? 」
ヒョイ、パクッ。
「うーん、もう最高!」
「ふっ。私が隙を突かれるとは、サマンサおそろしい子!」
「うぬ~。つ、次がきっとあるにゃ!」
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炎の輪を潜る小さな弾丸、咥えたナイフは的の中心に吸い込まれていく。歓声と拍手に観客の興奮度は高まっていった。
イベント会場では、吾輩の華麗な演技に大勢の観客は釘付けにゃ。もちろん吾輩は正体を隠すため首輪の偽装機能を使って普通のシャム猫に変装しているが、隠し切れぬ魅力が悪いのにゃ。
次々と繰り出される吾輩たちの演技に観客は魅了されているにゃ。
最後は、ネコさんによる脱出イリュージョンにゃ。青いチャイナドレスに身を包んだネコさんが透明の箱に手錠を掛けられた状態で押し込まれる。
助手を務めるのは、あざとい兎耳を装着したサマンサにゃ。サマンサが黒い布で箱全体が隠れるように覆って合図すると。箱が吊り上げるものもないのにゆっくりと中空に浮き上がって行き、やがて三メートル程の高さで止まった。
観客の歓声が木霊する中、サマンサが取り出した剣を構えるとジャンプして箱を真っ二つに斬ったにゃ。二つに分かれて落下する箱、しかし箱の中には何も入っていなかったにゃ。
サマンサが再び布で箱の残骸を覆うと布が持ち上がっていき、布から外した手錠をくるくる回すネコさんが現れた。そして、軽く一回転して傷一つ無いことを観客に示すと優雅にお辞儀したのにゃ。
吾輩たちの公演は大盛況で幕を閉じたのにゃ。後はホテルでゆっくり待つだけにゃ。
夜更けになると期待どおり、待ち人が訪れたのにゃ。
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