第31話 特別調教室

 ドタバタと五月蠅い音を立てながら貴賓室に黒ずくめの男が部下を引連れて入って来たのは襲撃者が消えてから三分後だった。


「その様子じゃ、逃げられたようねセバスチャン? もういいわ、傷の手当てをして休んでいなさい!」

 大統領は、仕事に失敗したセバスチャンにかなり辛辣な態度を見せているにゃ。

 警備責任者?セバスチャンの姿は確かに緊急に処置が必要に見えた。左手などは皮一枚で繋がっているとかだし、身体のあちこちに微細な破片が突き刺さっていた。一応、かなりの負傷を負っていても持ち場に来たことは評価すべきかも知れないにゃ。怪我の分だけ同情はしてやれるが力不足、結局足手まといだけどにゃ。


「ネコ船長、恥を忍んでお願いいたします。どうか、うちのメンバーを助けて下さい!」

「うーん、これ以上の面倒事は正直言って迷惑なので断りたいにゃ」

「そこを何とか」


 大統領が吾輩たちに攫われた四人のメンバーの救出を依頼したいと言ってきたが、果たしてこのまま受けて良いものかにゃ?


「ところで、ネコさん。ベアタッカーの新顔の三人についてどう見たかにゃ?」

 吾輩は科学主任に意見を求めつつ、大統領の依頼を断る口実を探っていたにゃ。

「そうね、特徴的な白髪とあのベアタッカーのリーダー、ゲインとか言ってたかしらとの相似点から導き出される結論は、九十パーセント以上の確率でサマンサと彼の娘たちね。誘拐の手際から見る限り、六倍重力に十分対応できていたわね」

「ふうむ、やはりそうなのにゃ。これで、彼らと事を構えるのが難しくなったにゃ」


「船長、私のことは気にしないでください。三人の娘たちにしても、あいつらに無理やり産まされただけで、それは凌辱の結果であって母娘関係などありませんから… …」

「そうね、この間も確認したけれど実際の授精については体外授精だし。性交については捕まった上での不可抗力だしね。結局は彼らの戦力として育てられた赤の他人ね。遺伝学上のつながりはあるけれど、そんなの無視すればいいわ」

「はい、何だか不思議な気がしますけどね」


 サマンサが私事を仕事に持ち込まないタイプのようで良かったにゃ。ネコさんも何かあれば支えてくれるだろうしにゃ。



「ヤン・リン・シャン侯爵、あなたからもネコ船長に口添えしてくれませぬか?彼女たちは私の閣僚であり、ライバルでもあり数少ない仲間でもあるのです。どうかお願いします」

 吾輩に断られた大統領が今度は、参謀総長の助力を得ようとしていたにゃ。一応仲間ということなのだろうかにゃ?

 参謀総長は、やれやれというゼスチャーを両手を使ってあからさまに表していたにゃ。


「それはそうと、この国の防衛網もザルだったようね。容易くベアタッカーの襲撃を許すなんてね」

 うちの科学主任が辛辣な判定を下したにゃ。


「彼らが用いている隠蔽手段が申告内容と異なっていたのでしょう。今までは彼らの攻撃船を見逃すことなどなかったのですが… …

 油断していたようですね」

 大統領が悔しそうに唇を噛んでいたにゃ。




◇◇◇

 惑星ドルーン首都ゾルーン奴隷商人の館


「ほう、アルカナファイブのセンターを除く四名を攫って来るとは流石はゲイン殿、ベアタッカー随一の腕前ですな。また、今回も種付けを手伝っていただけますでしょうか?」

 奴隷商人が四人の戦利品を前にして上機嫌で、ゲインに調教を任せようとしていたが。


「その件なら断る、俺は姫様の敵を討ちたい。そのために任務以外は全て訓練に、技の修練にあたりたい。本来なら、大統領こそ捕えたかったがあの場にまさか伝説の船長が居るとは思いもよらなかったぞ。

 あの船長め、俺の重力制御空間にいながら涼しい顔をしていた。底の知れない奴だ、もし俺が奴の仲間や大統領に手を出していたら無事帰って来られなかったかもな」

「なんと、御冗談でしょう。うーん、それほどなのですか?伝説の船長の戦闘力とは!」


「既に一度見せた技だからな、初見殺しはできても二度目があるとか楽観的過ぎるだろう?」

「そう言うもんですかねぇ」

「そう言うもんだ、という訳で技を磨く必要が増しているんだ。時間が惜しい、お暇させて貰おう」

 奴隷商人は、未練ぽく呟いた。

「仕方ありませぬな」


 


◇◇◇

 奴隷商人の館特別調教室


 四人のアイドル、いや奴隷が天井に設置された鉄の輪に鎖で吊られていた。   奴隷調教師ピエールは、先ほど主人の命令で案内してきた僧衣の男が揮う鞭の動きに感動していた。なんと、的確に急所を捉えているのだろう。


 ピシっ、きゃあ!ビシっ、うぁー!

 ピシっ、いやぁ!ピシっ、やめてぇー!


「ふむ、気に入った。この青い服の奴隷は館に連れて帰ってわしの専用奴隷にしてくれようぞ。良いな、主人?」

「はは、お気の済むようにいたしませ。では、アルカナ・ブルーは後でお館にお連れしましょう。では、他の奴隷は如何しましょう?味見していきますか?」

「そうだな、では、赤い服と緑の服の奴隷を試すとしようか」


 ふっ、やはり黄色い服の奴隷、アルカナ・イエローは他の奴隷と比べて見劣りするか。だが、味は一番良い筈なのだがな。この辺りは、第一印象、先入観によってベテランの調教師でも見誤る者も多いからな。

 ピエールは、主と上客たちによる凌辱の舞台を整えるとアルカナ・イエローを伴って自身の調教室へ姿を消した。                                                            

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