第30話 夕食会
◇◇◇
コメッコクラブ大統領官邸 貴賓室
十五分ほどで、吾輩たちは部屋に案内されると豪華な部屋の中にはトップアイドルがシックなドレスで出迎えてくれた。
道中、吾輩は既に正体がバレているので出迎えのヘリコプターに乗り込むと首輪の変装機能を解除して艶やかな黒毛をさらけ出したにゃ。
すると強面の案内人は、羨ましそうに吾輩を抱くサマンサが尻尾を触る姿に羨望の眼差しを向けるが鉄の意思で堪えているようだったにゃ。まあ、我慢しなくても背中の毛ぐらいなら少し触らせてやってもいいのににゃ。
「セバスチャン、ご苦労様。下がっていいわよ」
強面の案内人は名残惜しそうに、部屋から出て行った。
「ようこそコメッコクラブへ、アルカナファイブのセンターを張らせて貰っているアルカナ・タロットよ。人気者の宿命で大統領なんかやらされているわ。それで、この娘がアルカナ・レッド、国防長官よ」
「お会いできて光栄です、伝説の船長。
おお、紅いドレスの国防長官が興奮気味に吾輩を歓迎してくれているにゃ。
「大統領、後は私から紹介しますね。国務長官をやっている、アルカナ・ブルーです。それでこちらが、財務長官のアルカナ・イエローです」
ふむ、少しクールな青いドレスの娘が国務長官、黄色いドレスの娘が財務長官にゃ。
「よろしく、お願いします」
「最後に緑の娘が内務長官のアルカナ・グリーンです」
「よろしくお願いいたします」
ふむ、緑のドレスでどこか植物的で控えめな娘が内務長官にゃ。
「では、伝説の船長の来訪を祝して乾杯!」
大統領の発声で盃を干し、会食が始まったのにゃ。元来アルコールなど嗜まない吾輩も儀礼上飲み干したが、特別な訓練を受けた者としては飲み物に配合された成分で中枢神経に遅れが来る一般人と一緒にしないで欲しいにゃ。
意訳すると、美味しいのでもっとお替りが欲しかったが心配性のサマンサに取り上げられたのが心残りにゃ。
「船長の為に、丹精を込めて飼育した自慢の牛のステーキ肉を用意させました。無菌施設で飼育、調理していますので焼き加減はブルーレアで提供できますがいかがですか?」
内務長官が自国の産物を自慢したいようなので、誘いに乗ってあげることにしたにゃ。ところで、ブルーレアって火の通ってない生肉に限りなく近い状態で良かったのかにゃ。繰り返しになるが吾輩の様に特殊な訓練を受けた者は、生肉ごときで体調を崩すことなど決してないのにゃ。
大統領はレアを所望し、国防長官が吾輩と同じブルーレアに挑戦したにゃ。他の会食者はミディアム・レアを所望したがこればっかりは、好みの問題だからにゃ。
結論から言って、ブルーレア最高って感じにゃ。やはり野生の血が騒ぐのか、生肉に近い食感は命を頂いているという気持ちと共に力が湧いてくるような気がして心地よかったにゃ。
「うーん、ホントにこの肉の感じは今まで食べた中で最高ですね」
サマンサも大満足な様子だったにゃ。コース料理が終わってデザートと紅茶を楽しんでいたときに大統領から爆弾が投下されたにゃ。
「ところで、ネコ船長と
「それは … …」
吾輩がそう言えばどういう関係だったかを思い出そうとしていたにゃ。
「ふふ。それは、ありふれた男女の関係ですわ。ネコ船長が強引にわたくしを奪って下さったのですのよ、それはもう情熱的に」
もう、参謀総長は面白がっているのにゃ。
「いっ、そうなるのかにゃ?」
もう、面倒なのでぶっちゃけるとするかにゃ。
「いろいろ、不思議な事件が絡み合っていたので。縺れた糸を解すために直接参謀総長に真相を聞きに行ったら成行きで身柄を攫ったのにゃ。結局、それだけじゃ今一つだったのでこうしてコメッコクラブの大統領に会いに来たのにゃ。
ひとつ、教えて欲しいのはシアー共和国を操ってクライナ共和国を壊滅させたところで何のメリットがコメッコクラブにあるのかにゃ?」
「あ、ははは。あっはは」
大統領は心底可笑しそうに笑ったのにゃ。
「”転ばぬ先の杖”」
微かなつぶやきが、誰かの唇から零れた。それが、合図だったのか?貴賓室の壁が外部からぶち破られた。部屋の中の重力が急激に上昇し、体感で六倍になったことが知れた。
渦巻く煙の中から一人の男と三人の女が高重力を苦にすることもなく、部屋に入って来ると無言で一人ずつアイドルを担ぎ上げ去って行った。
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