第23話 暗躍するアイドル

◇◇◇

 某惑星 地下神殿


 深い闇の中で地の底から響くような陰鬱な声が聞こえた。


 祭壇には、金属の光沢を放つ笹の葉を咥えたパンダの像が祭られていた。


 黒い僧衣を来た神父が、微かな光を発する灯りを点すと周りに幽鬼のような人影がぽつり、ぽつりと現れ十二名の黒衣の参列者が祭壇の周りで祈りを唱えていた。

”肉食を捨て、笹の葉を食すパンダは尊い。怠惰に身を任せるパンダは永遠なり。悪徳に鉄槌を、いつの日か来る栄光の日々をわが手に!”

「栄光の日々をわが手に!」


 陰々んとした祈りの声が、地下にいつまでも木霊していた。



◇◇◇

 惑星グレイ クライナ共和国首都ギレル警察本部


「ええい! まだ連続誘拐事件の犯人の目途もつかないのか!」

 警察本部長の激怒に、会議場は静まりかえった。


「客観的に見て、目撃情報、監視カメラの映像等の手掛かりが皆無ですからこれは長期戦に成らざるを得ないでしょう。

 既に全国で一万人に届こうとする数の行方不明者が出ています。そろそろ本気で外部に応援要請した方がよろしいかと具申します」


 そのとき、電話が鳴った。

「はい、何ですと! はい、わかりました」


 警察本部長は苦り切った顔で、対策本部の解散を宣言した。以後の本件は軍の管轄下に置かれたのであった。

(くっ、何で事件の実態を外国政府から教えて貰わねばならぬのだ!)




◇◇◇

 惑星ルッズ コメッコクラブ大統領官邸


 切り立った崖にそびえる白い三階建ての豪奢な建物の屋上にピンク色の大統領専用車が着陸した。すぐさま護衛が降車し配置に着くと専用車から落ち着いたベージュのスーツを着た大統領が降りると護衛と共にエレベータの中に消えた。


 重厚なアンティーク調の木製家具に囲まれている部屋の壁には所狭しとアイドルグループのポスターが張られている。大統領執務室でそのセンターを務める女性がクライナ共和国とのホットラインの受話器を置くと妖しく微笑んだ。


「ふふ、これでクライナ共和国に恩の押売りが出来たわ。旧式の武器、いいえ防衛装備品を適正価格で売りさばいてファンクラブの大口支援者である軍需産業各社にもいい顔できるし、一石二鳥ね」

「まったくですね、大統領。来月のコンサートチケットも完売、大成功間違いなしですしねぇ」

「まあね、邪魔な対抗グループは裏市場に売り飛ばしたからね。うちらの人気に迫るアイドルなんかいないわよ」


 上機嫌な現役アイドルでもある大統領にすかさず追従する大統領補佐官。この国は一見するとアイドルが国の舵取りを行っている軟弱な国に見えるがその実は先進の科学力と工業力を背景に武器輸出で儲けている強大な国家であった。


「しかし、アタル帝国が今回の件に関与している証拠は未だ入手できておりません。いかがいたしましょうか?」

「そうね、何て言ったかしら?宇宙には都合よく何でも解決できる、【スーパーお手伝いさん】が居るとか言ってなかったかしら」

「はい、確か黒猫なんたらサービスとかいう民間会社が特に優秀だそうですが」

「じゃあ、いいこと。クライナ共和国の役人の誰かに依頼させなさい。いいこと、その手の怪しいところにはうちの名前は絶対に出さないこと、分かってるわね!

 その種の怪しい会社を使うと、議会で野党に追及されるから。あいつら、お情けで飼ってやっているのに鬱陶しいたらありゃしない!」


 大統領が黙っていれば可愛い顔をしかめて、補佐官に念押しした。

「はい、その辺は心得ております」



◇◇◇

 宇宙船太陽系マンズーマ・シャムセイヤ制御室


『はい、ご用命ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスでございます。

 ・・・ ・・・ 』

 今日も吾輩の周りは平和だにゃ。今日のおやつは何かにゃ?


『船長、出番ですよ』

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