第50話 三女の奮闘
さーて、お母様には私が持てる技術の限りを尽くして探してきた最高のシャンパンを楽しんでもらうんだから!
愚図愚図している余裕なんてないわね。まずは、あの惑星から手を付けてと。
三女ドライが選んだのは、砂漠の惑星であった。面倒なテラ・フォーミングに時間を掛ける余裕もないし、適当な小惑星を盗んできて衝突させて出来たクレーター跡をオアシス替わりに使っていたのだ。
「へえ、結構いいところね。ドライのことだからもっと殺伐とした風景を想像していたけれど。案外、まともに品評会の会場を真面目に作ったのね」
「それは、そうよ。だって審査員にお母様を招待して、末っ子ビームでメロメロにしてやるんだから」
白衣の魔女、最近軍事技術の革新的改革に尽力しその功績をもってドロテア・バンパネラ伯爵と呼ばれるようになった。この惑星も実はドロテアの領地をドライが得意のおねだり攻撃で半ば勝手に借り受けているのであった。
「それで、今日は何の相談かしら?今じゃ伯爵様なんてものをやらせて貰ってるけど下級国民の出なんでワインとかとシャンパンなんか詳しくないわよ?
それにあなたたちベアタッカーに便宜を図っているのがバレるとまずいのよ、最近うちのボスが妙に黒いシャム猫にご執心でね。あなた達のお母さんはネコ船長のお気に入りだからねぇ」
「ふーん、悪の
この前仕事で顔を合わせたときはそんな感じしなかったけどなぁ?私が犬派だからかなあ?」
「それでどんなシャンパンを披露するつもりなんだい?
「うーん、その前にこれを飲んでみてよ」
良く冷えた酒が細身のガラス器にドライの手から薄い黄色の発泡する液体が注がれた。
白衣の魔女は、眼を細めて一気に酒を呷った。
「ふむ、シャンパンと言っていたからフランス産の葡萄かと思えばイタリアの葡萄で少し驚いたよ。だが、砂漠を歩いて来て乾いたのどにこいつはいいな。微かに蜂蜜が入っているのも面白いが」
「ほんと、錬金術師さんてなんでも分析できちゃうのね。絶対秘密工場に錬金術師立入り禁止って立札を立てておこうッと。
で、結局のところどうなの?女子受けしそう?お母様に喜んでいただけるかしら?」
「まあ、産業スパイに我々錬金術師を雇う様な企業はおるまいから安心するとよい。コストが高すぎて、割に合わないからな。
それと、お前たちの母親のプロファイングをするための資料が何も無いのだが。奴隷商館に連れてきた時の記録とかはないのか?」
「ああ、あれね。やっぱり、見ないと駄目?」
「まあ、正確に相手を知るにはな。適当にお茶を濁すのなら、私も当たり障りのない助言をしてやるとするが」
「…… 仕方ないわね、両親の営みを見るとか、それも奴隷カタログの調教シーンなんて初心な私には結構きついんですけど」
「まあ、こればっかりはたとえ贔屓のドライの頼みでも情報のないところから分析結果は出せないからな。それに、可愛い子の困った顔も含めて今回の依頼のご褒美だからね。役得役得」
ドライは、恥じらって魅せるのも相手を無駄に喜ばせるだけだと悟り、努めて事務的にドライブを操作した。
巨大スクリーンに映る隠微な光景、一流の奴隷の誕生育成には快楽の頂点を極める必要があるとの奴隷商人たちの間で流行っている謎理論のもとゲインとサマンサの性交は鑑賞している者にも臨場感をもってその快楽の凄まじさが伝わって来た。
「なるほど、あなた達の父親は奴隷調教師としても一流の腕だった訳ね。惜しい男を失くしたわね」
「まあ、親父のことは後にして。どう、お母様のプロファイリングは?私のスパークリングワインに癒されてくれるかしら?」
白衣の魔女は、自分でスパークリングワインを注ぐと味わうようにゆっくりと飲んだ。
「そうね、彼女の生い立ちは私たちよりも低層階級のものだし、一族を抹殺され何度も奴隷落ちしているところなんかは、蜂蜜で癒されて欲しいモノね。
だけど、人は生まれ故郷にある種の信仰とでもいうべき特別な思い入れを持っているわ。だから、彼女の気を引きたければ惑星ズベルトの蜜蜂を使ってみるのも手ね。彼女の故郷は壊滅したけれど、花ぐらいは残っているでしょう」
「なるほど、お母様の故郷の蜂蜜でエモさを上乗せするのね」
「まあ、蜂蜜アレルギーじゃないことを祈っているわ。一応私の知る限りの記録ではアレルギーの記載はなかったけれど」
「はい。今度は惑星ズベルトに行って蜜蜂を探してみるわ。今日はありがとうね、ドロテア」
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