第2話 作戦会議
「では、お手元の資料の五頁をご覧ください」
資料の標題は、「侵略者(
「侵略者である中帝国の首都に赴いて地下数百メートルのトンネルを掘削し、回復不能な病原体ただし中帝国人にのみ発症する病原体を地下水脈に散布いたします。
実行者は、ネコ船長。護衛役はネコ船長の膝に図々しく乗っているアスタロトが完璧に務めます」
T1惑星連合の主要幹部に対して白衣を着た眼鏡美人がブリーフィングをしていた。もちろん担当しているのは、我が船の科学主任であるネコさんの人間形態である。まあ、いろいろあってうちの科学主任も魔導を扱えたりするのにゃ。
吾輩は、大統領と同格の座り心地の良い椅子に座って眺めている。膝の上には青い目のビスクドールが鎮座しており、ときおり女性参加者が吾輩の黒い毛皮に手を伸ばすと瞳を不気味に輝かせて威圧していた。
大凡、三週間ほどで中帝国に属する居住惑星全てを病原菌で汚染し尽くせると資料では図表とグラフで説明されていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これじゃあ、細菌兵器を使用すると言うのかね?中帝国人にも善良な市民もいるだろう、それを人口のほぼ九十パーセント以上が死亡するとは・・・・・・
いくら何でも、やり過ぎじゃ無いのかね?」
内政を司る大臣の一人が計画に意義を唱えだした。
「細菌兵器がお気に召さないということですか。では、十五頁をご覧ください」
資料には、居住惑星全てに対し、宇宙船の主砲で攻撃すると書かれており、中帝国構成惑星は全て宇宙の塵と化すと図表及びグラフで丁寧に説明されていた。
「うっ、居住惑星全てを破壊し尽くすなどと・・・・・・ 人道的見地から外れた手段など、我がT1惑星連合では到底容認できないと言っておるのだ!」
会議場に白けた空気が漂った。
「大統領、こう言っては何ですが。そちらの現状認識もできていない大臣は解任した方が良いんじゃないですか?」
「おい、失礼じゃないか!私は現状が良く見えているからこのような非常識な対応は出来ないと言っておるのだ」
顔を真っ赤にして、大臣が怒りを発する。
「ネコさん、中帝国の侵略を許したらどうなるのかを表示してくれにゃ」
「了解、ネコ船長」
大型スクリーンに映し出されたT1連合の各惑星では見えない鎖に繋がれたTI惑星連合の住人が劣悪な環境下での強制労働や、うら若い女性たちが性的搾取をされている状況が映し出されていた。
特に異様なのは自分たちの酷い待遇に対して、住人たちの目からは反発や怒りすらなくただ従順に支配者に従っていた。
「ご覧いただいている映像では、中帝国の開発した奴隷管理用の首輪及び鎖を一般人にもわかるように特殊な処理で可視化していますが、これらは通常では感知できません。
中帝国の施策傾向から、この映像以上に良い待遇になる可能性はゼロと予測されます」
「うう、こんな酷いことを奴らは我々を同じ人間だと思ってないのか?」
先ほど反対した大臣とは別の大臣が怒りを顕わにした。
「いや、だからと言って我々が中帝国と同じレベルまで落ちる必要など無い。だいたい、この者たちの予想が当たるとは限らないだろう。
我々は粘り強く中帝国と交渉を続けるべきだ!」
「おお、その通りだ!」
「やれやれだにゃ。大統領、会議は終わりですにゃ。アルド、VRモード終了にゃ」
T1惑星連合の主要メンバーの姿が消え、いつもの船内風景に戻った。
「人の善意をこれほど信じられるなんて、ある意味幸せな人たちかもね」
ネコさんが溜息をついて、お茶をゆっくりと飲んだ。
結局のところ、T1惑星連合は誇り高い滅びの道を選んだのだった。
まあ、今回は無駄足だったにゃあ。相変わらず探し物は見つからないし。
「ありがとうにゃ、あちっ」
いや、まあ完全な無駄足ではなかったか? お茶を運ぶ白い髪の女性を見ながら吾輩は探し物がいつか見つかる希望を抱いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます