第3話 運び屋を選ぶのにゃ

 久しぶりの上陸にゃ、さーて新たな出会いは何かな?

 焼き立ての海鮮かにゃ? 刺身もいいにゃ。山の幸は風変わりなキノコ?と野生の引き締まった筋肉を煮込んだ絶品シチューもいいのにゃ?

 さーて、どこの屋台がいいかにゃ? なかなか旨そうな匂いが漂っているにゃ。

「お? 黒い猫? え?シャム猫だよな!」

「え、まさか?黒のシャム猫って言えば!」

「ま、まさか?! 伝説の船長!」


「ネコ船長!」 


 お?なんか騒がしいにゃ。吾輩は、食べ歩きで忙しいから雑事は他所でやってくれにゃ。


「オヤジ、そこの旨そうな串焼き一本にゃ!」

「へいよ、バッファローの肩肉だ。美味いぞ!五百霊子レイスだ」



 吾輩の口座ウォレットから四五〇霊子が串焼き屋のオヤジの口座へ、消費税分の五十霊子がここの政府にそれぞれ送金される。

 大概の政府は、集税官吏を廃止してその分の収益で減税し一律十パーセントの消費税だけで運営しているため庶民の生活は基本的に向上している。


(因みに余談だが、スカーレットの乱以降の地球の基軸通貨”円”と一対一の交換レートとなっているが誰得なのかは知らないのにゃ)


 ご主人が開発した”魂に刻むブロックチェーン:霊子”、盗難、亡失、GOX《ゴックス》の心配のない仮想通貨だ。

 


「毎度あり」


 オヤジの少しぎこちない笑顔に美味いにゃと答えて次の獲物へと向かおうとした瞬間、左右前後から腕が吾輩に殺到した。


「ネコ船長、握手してください!」

「抱きしめたい、その漆黒の艶のある毛皮、お持ち帰りしたい!」

「伝説の船長に出会えるなんて、今日はついてるぜ」



「・・・・・・ 吾輩は、プライベートの時間を楽しんでいるのにゃ。ファンサービスや仕事の依頼は会社のマネージャーを通して欲しいのにゃ!」


「ふん、無様ね。船長のくせに勝手に持ち場を離れて上陸任務なんてするからよ。ばちが当たったのね。宇宙で一匹だけの黒いシャム猫なんだから、馬鹿でも気付くわ」


 熱狂的なファンどもを華麗なフットワークで躱して路地裏に隠れていると、白衣を着た女性に罵られてしまったにゃ。


 うちの科学主任は、やれやれというような顔で吾輩に首輪を付けよったのにゃ。すると、吾輩の容姿がそこらのシャム猫と判別できないほど普通になり下がったのにゃ。


 光学魔導の力で普通のシャム猫姿を確認すると吾輩はクールに科学主任に礼をいったのにゃ。

「まあまあの出来だにゃ、ねこさん。しかし、こうも吾輩の人気が高いと宇宙中の猫が嫉妬するのにゃ」


「はいはい、しかし上陸任務や潜入に毎度私が引率するわけにはいかないし。そんな暇があったら、魔導の研究に回したいし・・・・・・

 そうだ船長、飼い主を雇いましょう!」


「何がどう転んだら、そんな答えに行きつくのか疑問だがにゃ?吾輩の高貴な身体を運ぶ人夫を雇うのは、あながち悪い話じゃないかもにゃ。

 休日の度のファン整理とか、出張旅費の精算とか雑事は他人に任せるのが吉にゃ」


「では、行きましょうか。商売柄、奴隷商人の心当たりもありますから」

「この惑星も奴隷商人がいるのにゃ?」


「まあ、帝国が仕掛けた戦争の被害者、所謂戦争奴隷とかに有能な者もたまにいますから」


 ネコさんが合言葉を言うと、番人から連絡を受けた商人が揉み手をして出迎えてくれた。


「これは、これはネコさん。いつもながらお美しい、直接お見えになるのは珍しいですな。今日はペット同伴ですか」

「ええ、この子の世話係に良いのが居ないかと思って」


 奴隷商に案内されて、地下の商品倉庫を見回したが予想していたほどの悪臭が無いのに驚いたのにゃ。


「お客様がご不快にならぬよう、できるだけ奴隷の健康には気を使っておりますよ。中々表情の豊かな猫ですな。ネコさんが大事にしておられるようで、しかし妙ですななぜか愛情が感じられませんな?

 まるで希少な実験動物に対するような・・・・・・ これは、失礼いたしました」


「ふふ、構いませんわ。商取引でマウント取るために情報を引き出そうとするのはむしろ本能でしょう。この子は、言わば預かり物ですから・・・・・・

 大事は大事ですけど寵愛を取り合うライバルみたいなものですわ」


 ふむ、年季の入った商人相手に煙に巻くのか。さすがはネコさん、ご主人が一目置くだけのことがあるにゃ。


 倉庫に並ぶ商品たち。それなりの上客相手に選抜されているのだろう、見た目で不快感を覚えるような容姿の者はいなかった。各自持たされたボードに、能力値や特技などが表示されている。

 いろいろな惑星から連れて来られたのだろう、どうやって入手したのか中には地球人もいたのには少し驚いたにゃぁ。


 ふうむ、目新しいのはいないにゃ。別に夜伽を命ずるつもりは無いので容姿はどうでもいいのだが。ピンと来るものがない。所謂、猫跨ぎな気分でネコさんに首を振って小さく鳴いたにゃ。(他に隠し球は、無いのかにゃ?)


「ところで、ここに出してない商品があるみたいだが?」

「おほほ、なかなか趣味が厳しいペットさんですなあ。あとは、二戦級の代物でネコさんにお見せするような者は・・・・・・

 ま、まさかあの者が? まだ、躾が出来ていない商品があるのですがお見せしましょう」


 もう一つ下の階に移動して扉を潜ると、一気に悪臭が鼻に突く。


 檻の前に止まると、中にボロを着てうずくまる女性が一人いた。商人が合図を送ると嫌そうに女性が立ち上がった。

 痩せ気味の白い長髪が特徴的な女性だった。


「この奴隷は、捕まったときのショックのためか言葉が話せません。容姿もこんな不気味な白髪でなかなか買い手が付かず、お安くしときますよ」


 女性奴隷が吾輩に気付くと、何か言いたそうに必死の形相で見つめ、叫んでいるようだが声がは出ていないにゃ


(猫・・・・・・、私は猫に仕える。私は黒いシャム猫に仕える定め・・・・・・)


 気のせいか女性奴隷の心の声が聞こえたようにゃ?

 吾輩は、ネコさんに購入の意思を告げるために大きく鳴いた。


「ふむ、この子が気に入ったのなら仕様がないわね。この商品を頂くわ」

 ネコさんが購入手続きを進めて、女性奴隷は晴れて吾輩の運び屋に就任した。

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