第6話 潜入

「アルド、上陸したら衛星軌道上で待機するにゃ。攻撃して来たら、適当に追い払ってもいいが深追いは止めておくのにゃ。

 相手はマチルダの関係者かも知れないので、出来る限り殺さないで欲しいにゃ」

 上陸班の点呼を取るついでに、指揮権の移譲を行う吾輩は有能な船長なのにゃ。

「しかし、船長がわざわざ上陸する必要は無いかと思いますが。どうか我々にお任せを」


 サマンサが意見具申してくるとは成長した様でうれしいのにゃ、だが私情は禁物なのにゃ。

「いや、今回は吾輩も出る。気になることが有るのにゃ」


「まあ、どうせ買い食いがしたいとかでしょ?」


 留守番の科学主任が失礼なのにゃ、それは評判のT1カステラは必ず賞味するのは決定事項なのだが、お土産は買って来ないことに決めたのにゃ。


「しかし、その首輪の機能はいつ見ても凄いですね。船長がただのシャム猫にしか見えませんもの」

「まあ、それなりに科学と魔導の技術の粋を集めてあるわ。偽装機能の他にも、簡易バリア、通信機能、追跡機能もあるから迷子になっても平気よ」 


 吾輩の専属運び屋サマンサが、科学主任の気を逸らす。うーん、吾輩と息もピッタリでワクワクして来たにゃ。うん?何か監視されてるような気がしてきたが、きっと気のせいにゃ!


『旦那様、お早いお帰りを』

 青い瞳のビスクドール(アスタロト)が居残りを命じられて不機嫌そうに見送る。


「アルド、合流地点へ転送」



***


 路地に停められたトラックの影に吾輩たちは転送されたにゃ。


 トラックの荷台から、若い女性が居りて来てきょろきょろとあたりを見回した。


「マツリダです、ご苦労様です。ところでネコ船長ご本人が来られると伺ってましたが、何か不都合でも?」


「ふふ、問題ない。吾輩がネコだ、戦地なので変装してきている。この者は吾輩の部下サマンサだ」


「その声は、ネコ船長。失礼いたしました。では、こちらへご案内いたします」

 マツリダさんがサマンサの腕に抱き抱えられている吾輩を凝視したので、一瞬だけ偽装を解いて見せたのにゃ。

 驚いたマツリダさんの指示でトラックの荷台に三人で乗り込むと、静かにトラックは走り出したのにゃ。




***


「ふむ、こんなものかにゃ」


 吾輩たちが案内されたのは収容所の一つのようだった。

 そこは鉱山にある収容所で、T1惑星連合の民衆が危険な採掘作業に従事していたのにゃ。重労働に耐えきれなくて倒れた男に容赦なく鞭が浴びせられ、それでも起き上がれない者は何処かへ連れられていった。

 収容されている者もそれを監視監督している者も同じT1惑星連合の住民のように見えた。


 マツリダさんの言うには、昔中帝国の前身の中共和国で革命が起こり政変で追われた勢力が興したのがT1惑星連合だったらしい。

 つまり人種的な特徴はほぼ同じ、親戚筋も大勢いるらしい。他所から来た吾輩たちに区別がつかなくても何ら不思議はなかったのにゃ。



***


「なるほど、今回の案件は結構面倒ね。T1惑星連合の内部にまで食い込んでいる異物を排除するのは ・・・・・・

 ここは、サマンサの力を借りるしかないわね。二、三サンプルを送って貰って実験してみるからそうね、一日時間をちょうだい。

 良かったじゃない、船長の好きな買い食いする時間ができて」


 


 

 むう、マツリダさんに消えても騒ぎにならない程度の小悪党を見繕ってもらって送還完了と。

 これで気兼ねなくサマンサと買い食いを楽しむことが出来るにゃ。


「T1カステラのクリーム入りとイチゴが乗ってるのをください」

 サマンサが、早速目に付いた店でT1カステラを購入した。


「あら、可愛いシャム猫ね。はい、千霊子レイスね」

「うわ、美味しそう」

「うん、美味いにゃ」

 

 兵は拙速を尊ぶと言うが、吾輩も実践している。ふむ、これがT1カステラか。ふわふわ、プルるんとして上に乗ったイチゴとホイップクリームがまるでショートケーキのようだにゃ。

 サマンサも気に入ったようで、買い食いのスタートはいい滑り出しにゃ。




***

「マツリダ様、こんなところに居られましたか。大統領がお呼びですよ、さあ参りましょう」

「嫌よ、は、離して!」


 

「え?何だって。マツリダが連行された?」

「はい、船長衛星軌道上から監視していたところ、大統領の部下と思われる男に連れていかれました」


「ふうむ、急がせてくれるにゃ」

「船長、助けに行きましょう!」


 まあ、こうなってしまったら放って置く訳にもいかぬか。仕方ない、猫の手だったら貸してやるにゃ。

 

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