第5話 暫定政府

「それにしても、伝説の船長がしゃしゃり出てきた時には肝を冷やしたぞ。まあ、平和ボケの大統領が居てくれて助かったがな、あっはは」

 

「何しろ、恒星系まるごと宇宙船などという冗談みたいな代物で一気に彼我の兵力バランスが崩されますからな。予め政府要人の六割を奴隷化していたのが功を奏しました。流石は、あたる帝国軍参謀総長殿の裏工作に抜かりはございませんな。はっはは」


 前内務大臣、現T1惑星連合大統領が画面越しの相手に迎合して笑った。



 ヘッドセットを叩き付けた美女は、沸き起こる怒りと怨嗟に涙を浮かべながら脱出の準備を始めた。三日間あいつに身体を好きにさせた甲斐があったわ。証拠を掴んだ以上は、長居は無用ね。なんとしてでも、T1惑星連合を奴等から取り戻すのよ。



***


 訓練ルームで白髪の女性が短剣を揮うが、白衣の女性にはかすりもしなかった。

「サマンサ、遠慮せずに使っていいのよ。あなただけの力を、ここでは特殊な力が働いてお互いに怪我をすることはないわ。まあ、ちょっと熱かったり痛いと思うだけね。だから全力で来なさい!」


「わかりました、先生!」


 聞こえない言葉が響くと、訓練中にサマンサが倒した蛇や虎が白目を剥いてネコさんに襲い掛かった。

 ネコさんの手刀が蛇を叩き伏せ、虎の牙を掻い潜って心臓に膝蹴りをくらわす。

 壁まで吹っ飛ぶ虎、だが。しかし ・・・・・・


 既に止まっている心臓を破壊されても平気な虎は、猛然と飛び掛かると右前脚がネコさんに激突する。ネコさんの額が抉れ鮮血が飛び散った。


 かのように見えたが、ネコさんがサマンサの後ろから首に鋭利な爪を突き付ける。サマンサは両手を上げ降参の意思を示した瞬間、空中に飛びあがって後方一回転、両足でネコさんの背中を蹴った。


 ネコさんは、猫の姿に戻って飛び蹴りを躱すと訓練終了を告げた。


「最後のは、なかなか良かったわよ。闘いの場において正々堂々なんて、地球じゃ源平の頃に置き忘れさられた文化ね。

 だけど、死霊術を使っている間、攻撃できないのは辛いわね。まあ、今後の課題ね」


 ふうサマンサも結構、いやかなり強いのにゃ。これは、吾輩もうかうかしておれんにゃ。


「じゃ、今度は吾輩の番にゃ。必殺のニャイダーキックが火を噴くのにゃ!」


『ネコ船長、出番です。ブリッジにお戻りください』

 がくっ、無情にも黒猫ビジネスサービスのオペレータは仮の姿、本船太陽系マンズーマ・シャムセイヤの制御AIであるアルドに水を差されたのにゃ。 


「ふふ船長、必殺技はまた今度ね。サマンサ、行きましょう」



◇◇◇

 

「ネコ船長、私は前大統領の娘マツリダと申します。一度断っておいて虫のいい話でしょうが。そこを曲げて、どうかお願いします。心ある者は悉く中帝国に奴隷化され、もはや我々単独ではどうしようもありません。

 あの作戦会議のときには既に、六割を超えるメンバーが密かに奴隷化されている状態だったようなのです。あの場の決定は、無効です」


『船長、中帝国軍本部及びT1惑星連合大統領府のデータベースをハッキングしたところ、元大統領御息女の訴えの確認がとれました』


 ふう、せっかく面倒事を回避したはずなのに、いつの間にかまた尻尾に喰い付いて来たのにゃ。 


「アルド、T1惑星連合の大統領府がある惑星へ転送可能距離まで前進」

『了解、惑星チーペイへ向かいます。三十分後に到着予定です』


「マツリダ、貴官を太陽系船長ネコの名に於いてT1惑星連合暫定政府代表と承認する。これからそちらへ伺います。

 猫の手だったら貸してやるにゃ!」


「ありがとうございます、ネコ船長」


 マツリダが涙ぐんでいたにゃ。

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