第14話 太陽系って
***
ある恒星から約五光日(注:真空中を光が五日掛けて進む距離)
「主砲発射!」
ネコ船長の号令が発せられた。
超極太の反物質ビームが目標である恒星に向け発射された。反物質ビームはイメージどおり瞬時に光速を遥かに超える速度で恒星に命中。その結果、対消滅により発生したエネルギーが一つの恒星系を綺麗に吹き飛ばしました。
先ほどまで大型スクリーンに拡大表示されていたオレンジに輝いていた恒星も周回していた五つの惑星の姿も今はありません。
『目標破壊を確認、対消滅により発生した余剰エネルギー捕捉成功、シールド損傷なし、航行に支障なし』
「了解にゃ、各員通常配置にゃ」
「テストの際に発生したエネルギーを回収しなくちゃ、リサイクルは大事ね」
白衣に伊達眼鏡を掛けた科学主任がいつもの口癖を呟きました。不思議ですね、なにか黒い靄のようなものが彼女の周りに漂っています。
さて、主砲のテストも無事成功、船長からの許可も出たことですし私も通常営業に戻るといたしましょう。
『はい、ご用命ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスでございます』
私は本船の制御AIのアルドです。暇なときは、情報収集も兼ねて派遣会社の受付及びリモートによる派遣業務を行っています。
大体常時、百件程度をマルチタスクでこなしています。こう見えて私、人間なら一生終わらないような業務も片手間に処理できる超優秀なAIですよ。
本船にはもう一人アラクというAIがいますが、そいつは第三惑星地球の衛星、通称”月”において女王様のお相手をしているのでこっちに来ることはあまりありません。
そうそう、本船の正式名称は
そのとき少しだけ、彼の好感度が上昇したのはなぜでしょうか?
今まで出会ったどの文明も保持したことがなかった超巨大宇宙船、主な構成要素は恒星一、惑星八、準惑星一、他に惑星の周囲を回る多数の衛星や、長い物で数千年周期で太陽を周回する彗星である。太陽系と呼ぶこの恒星系全体が本船の正体です。
超巨大宇宙船太陽系は、永い休眠期間中は天の川銀河の辺境に位置していましたが
そう言えばなんでこのタイミングで主砲のテストをしていたかというと、数日前に遡ります ・・・・・・
『はい、ご用命ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスでございます』
いつものビジネストークと笑顔でお客様の対応をしていますと、通常の案件でない依頼が数十件の中に一つ紛れ込んできました。仕方ありませんね、AIが処理すべき範疇ではありませんね、ここは船長にお仕事して頂かなくては。
『船長、出番ですよ』
「むにゃ、もう少し寝ていたいのにゃ」
『状況をご説明いたします』
いつまでも甘い顔をしている訳にはいきませんので、冷たい声で押し切ります。この辺は、わがままな人間と過ごす中で身に付けた処世術です。
以前、惑星グレイにおいてクレイナ共和国の首都ギレールに武力侵攻したシアー共和国(アステロイド・アタックで消滅したはず)がまさかの復活、彼らは惑星ドルーンで力を蓄えまたもや惑星グレイに侵攻を開始したそうです。
「ふむ、逃げ延びたシアー共和国の残党が惑星に侵攻するまで戦力を拡充するのが早すぎる気がするにゃ?
一応調べた方が良さそうにゃ、アルド調査を頼むにゃ」
『了解です、船長はまたお昼寝ですか?』
船長席で欠伸を噛み殺す黒いシャム猫。
「いや、惑星グレイに降りるにゃ。なぜそこまで、執拗にその惑星に拘るのか興味が湧いてきたにゃ」
「面白そうね、私も行くわ。グレイの残留放射能も確認しておきたいし」
白衣に眼鏡がトレードマークの科学主任が、研究者ぽい興味を示してきました。これは怖いです。
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”地球”
太陽系第三惑星
半径 六千三〇〇km
陸海比率 二:八
地殻 地表から六十km
マントル上部 六十km~六六〇km
マントル下部 六六〇km~二九〇〇km
冷却部 二九○○km~五一〇〇km
制御AI アルド
注:地球の陸海比率は数年前までは三対七であったが、紅い
”月”
半径 千七三六km
陸海比率 十:〇
地殻 地表から五十km
マントル 五十km~千一五〇km
冷却部 千一五○km~千五〇〇km
制御AI アラク
”制御ルーム”
制御AIと乗員が意見を交わす場でもある。
核には他に、乗員の居住施設、研究施設、訓練施設、格納庫等も設置されている。
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