第12話 代償

『はい、ご用命ありがとうがございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスです。はい、お渡しした資料以外は残念ながら残っておりません。はい、何分提携会社が開発中の偵察用ドローンに攻撃を受けてしまい反撃したところ対象を運良く殲滅できたということでございます。自動運用モードのテスト中でしたので全て自動処理されました。その際わずかに残った破片と映像データを入手し、そちらにお渡しした次第でございます・・・・・・ 』


 ふむ、例の失踪事件は巨大ゴキブリを退治したことで一件落着となるであろうにゃ。

 吾輩たちがあの場に居合わせたのは秘密のできごとなので、ネコさんが偽装用に新たに開発した偵察ドローンの破壊光線で倒したことにし、アルドが作成した証拠映像とわずかに残った破片を提出したのにゃ。まあ、我が社に死角なしにゃ。

 こっちは、優秀な受付嬢(アルド)に任せてちょっとサマンサの様子を見て来るにゃ。



***



(ああ、止めてお祖母様を食べないでぇ!)

 砂漠に倒れた老婆の脚を巨大な茶色のゴキブリが咀嚼していく。両足を食べたら両手を、そして頭を齧りだす化け物め。許せない!

 駆けだそうとしたら、目の前の光景が変わった。


 室内では隠微な光景が展開されていた。

 中年の女と若い女が尻を並べて太った男に交互に圧し掛かられていた。


「ふふ、やはり若い女はいいな。これからは母親同様可愛がってやるからな、まあ逆らったら母親がどうなるか分かっているだろうな。助教授の地位を追われるだけじゃないぞ。研究費の使い込みがバレたら良くて終身奴隷、見せしめのために死刑もあり得るからな。

 だから、俺に心を込めて仕えるんだぞ」


 おぞましい男の声が、肌を這う手が舌が怖気を誘う。いやあ!こんな母娘なんか知らない、こんな最低な男に肌を見せたことすらないはずなのに。恐怖が屈辱が、怒りが募る。

 こ、殺してやる!最低最悪の男たちはいつか私が殺してやる。殺す、殺す、殺す ・・・・・・


(う、身体が動かない。また最低野郎に、犯されてるの?

 うん? ザラザラする、でも暖かい ・・・・・・)


 う、うーん。


「え?ネコ船長?な、なんで?」

「サマンサ、やっと起きたか。随分うなされていたのにゃ。」


 吾輩は、何度声を掛けても起き出さないサマンサが心配になり、飛び乗って

いろいろちょっかいを掛けたのだ。まあ、ほっぺをぺろぺろしたのは少しやり過ぎだったかも知れないにゃ。


「お祖母様にも注意されていたんですが、交霊術で死霊の記憶が夢の中で自分の体験と混同してしまってました。普通の悪夢よりも性質が悪くて、お祖母様が殺された夢とあの糞教授が母娘を犯している夢を見ていました ・・・・・・

 でももう大丈夫です、ネコ船長に追払って貰いましたから」


「そ、そうか。ぺろぺろが効いたのなら良かったにゃ」

「はい、ぺろぺろのお陰です」


 サマンサは洗顔と着替えを済ませると、笑顔で吾輩を抱きあげると部屋を出たのだった。

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