第34話 魂の尋問

◇◇◇

 太陽系マンズーマ・シャムセイヤ制御室


 吾輩たちはシアー共和国の首都ゾルーンからエネルギー転送で船に帰還したのにゃ。本来なら救出予定の四名全て一度に救出できると思っていたが、一人だけ奴隷商人の館から連れ去られた後だったのにゃ。変なフラグは建てるものじゃないにゃ。


「サマンサ、済まないが例の力を使ってくれないか。奴隷商人にアルカナファイブの残り一人の行方を尋問したい」

 吾輩が、死体その一を視線で示すとサマンサが頷いた。サマンサはこの世界でも稀な死霊術師ネクロマンサの技術を受け継いでいる、新鮮な死体があれば魂を呼び込み使役するのも彼女にとっては容易いことだった。問題があるとすれば、心情的なもつれがあることかにゃ?


「船長、少々準備しますのでお時間をいただきます」

 そう言うとサマンサは自室に必要な物を取りに行ってしまった。

「ネコ船長、彼女の例の力って何だい?」

 どさくさに紛れて本船の来客として居座っている参謀総長が興味深げに聞いてきたのにゃ。

「いずれわかることだから話してしまうが、サマンサは死霊術の優れた使い手なのにゃ。だから怒らせたら、死後に使い魔としてこき使われてしまうのにゃ。恐ろしいのにゃ」

 参謀総長は、苦い顔をして呟いた。

「山岳惑星ズベルトの生き残りか、そう言われて見れば確かにあの白髪は特徴的だが。こんな所に稀有の能力者がいたとは!」


 サマンサが戻って来て、儀式を始めたのにゃ。懐から謎の液体を取り出すと自らの小指を切って血を注ぎ混ぜ合わせると奴隷商人の首が折れた死体に振り掛けたのにゃ。死体の周囲だけなぜか照明の輝度が下がったかのように薄暗く感じて見えたのにゃ。

 吾輩には読めない異国の魔導文字で、サマンサが死体の周りに魔法陣を書いていったのにゃ。

「我、サマンサの名により命ずる。死したる骸に生前の魂を呼び戻し仮初の生を与える。さあ、奴隷商人の魂よ今一度肉体に戻って我、サマンサの問い掛けに答えよ!」


 魔法陣が一瞬輝くと、魔法陣の中に横たわっていた死体がゆっくりと起き上がった。生前の贅沢な食事で血色の良かった肌艶と一変して青白い不健康な肌、折れた首、生気のない眼光が異様な姿、つまり生命なき死体であることを物語っていた。

「さあ、汝に問い掛けよう。其方らが捉えて奴隷にしていたアルカナ・ブルーの行方を嘘偽りなく申して見よ!」

「アルカナ・ブルー?教団の幹部が無理やり買い取っていきましたな。本当はもっと内覧会で儲けさせて貰ってから売りたかったんですがね」


「サマンサ、教団の正体とアルカナ・ブルーをどこへ連れ去ったか確認してくれにゃ」

「はい、ネコ船長。奴隷商人よ、その教団とは何だ?アルカナ・ブルーをどこへ連れ去ったか、隠さず答えよ」

 奴隷商人は皮肉ぽい顔で、声を落とした。


「教団は、教団ですよ。言わば我々の新たな支配者、王族亡き後の真の支配者ですな。アルカナ・ブルーは支配者様の館、つまり首都ゾルーンの王城で今頃は支配者様に凌辱されているでしょう。ふふふっははっは」


「もう、聞くことはないにゃ。サマンサご苦労様にゃ、そいつを地獄に送っていいにゃ」

「はい、ネコ船長。奴隷商人よ、再び地獄の業火に焼かれて罪を償うが良い。去れ、汚れた魂よ!」

 サマンサが命令を発すると死霊術で仮初の生命を留めていた肉体は青白い炎に包まれると燃え尽きてしまったにゃ。


「ネコさん、アルカナファイブの三名について治療したら眠らせておいてにゃ」

「そうね。心の傷はともかく、身体の傷はすぐ癒えるわ」


 もう一度、首都ゾルーンへ行って残ったアルカナ・ブルーの救出に行くにゃ。面倒臭いのは今回限りにしたいにゃ。

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