第17話 この僕が、成り上がり?
「僕を、冠位十級薬師に、飛び級で推薦……?」
予期せぬ内容に、手紙を持つ手が震えて止まらない。
「飛び級って……えっ。え? 僕、冠位ですらない、ブロンズなんだけど……?」
一気に五階級も飛んじゃうの? 飛びすぎじゃない? 大丈夫?
伺うようにマイヤを見るも、マイヤはそういう昇格とか肩書きに興味のある子じゃないから、イマイチ「?」な顔をしている。
横から覗き込んできたユーリィが、どこか得意げに説明をする。
「お父様は、とても優秀な四級の魔術師。冠位四級以上の冒険者には、他の冒険者の飛び級を個人推薦する権限が与えられているのよ。お父様のお話だと、確か、二年に一回、一階級分……だから、ざっくり換算すると十年分の飛び級付与ということになるわ」
「じゅ、十年分!? えっ。そんな……いいの!?」
今更ながらに、事の大きさに心臓がバクバクとしてきた。
目を見開いて動揺する僕に、ユーリィは小さく頷く。
「でも、推薦による飛び級には確か階数の制限があったはず。同じことが何度も起こるとは思わない方がいいと思う」
「それでも、やっぱり。一気に五階級はすごいよ……」
「お父様は血縁だからといって、上のお兄様やイキリィお兄ちゃんに、実力以上の贔屓をすることはないわ。勿論、私相手にも。だから、あなた……ルデレさんに冠位十級相当の実力があるのは確かなんでしょうし、何よりも、こういった明確な形で感謝の意を示したかったのだと思います」
「感謝……」
そんなこと、されたの初めてだから……実感がまだ湧かない。
でも、その言葉に、何故か胸があたたかくなって、頬が緩んで、嬉しくて……
「ルデレくん、よかったね」
そう、微笑みながら肩を叩いてくれたマイヤが、僕に、それが夢でなく現実なんだと、優しく教えてくれた気がした。
「そっか。そっか……あはは。僕が、冠位薬師かぁ……!」
――お父さん、お母さん。
僕、冒険者になってよかったよ。
人の役にたって、感謝されて……嬉しいと。がんばってよかったと、思えたんだ。
きっと次に会うときは、胸を張って、そう言えると思った。
◇
翌日。
僕とマイヤは、『吸血鬼の涙』を求めてさらに西に向かうため、再び発とうと荷物を背負う。
僕らを見送りに来てくれたユーリィは、共に過ごした数日間ですっかり仲良くなっていたから、「お母様が迎えに来たら、私も中央の本邸に行くからぁ。会いに来てねぇ……」なんて、別れを惜しみ、涙ぐんでいる。
隣でユーリィの頭を撫でて、慰めているネトレールは、(もう奴隷ではないので)きちんと服を与えられ、白いフリルのあしらわれたワンピースに身を包んでいた。
そんなネトレールが、ふわりと、ユーリィでなく僕らの側に並び立つ。
「私も行きますわ」
「「えっ??」」
ユーリィとはすでに話を済ませていたらしく、ユーリィの表情に驚きはみられない。ただ、優しいユーリィは、いままでネトレールを屋敷に縛りつけてしまっていたことに対し、申し訳なく思っていたらしい。
屋敷を出ると意を決したネトレールに、ユーリィは、まっすぐな眼差しを向ける。
「ネトレール……元気でね……」
「ええ。ユーリィもね」
「中央に来たら、また会いに来てくれる?」
「ええ、もちろん!」
「奴隷紋を施したお父様に……その……復讐したりしない?」
ネトレールは、一瞬、八重歯を覗かせて。笑みを浮かべた。
「しませんわ。悪いのはあくまで、私を捕らえた、あの憎き剣聖。『不死の吸血鬼なんだから、てめぇの専門だろ、死霊使い。なんとかしろ』と。コーレィに無理難題を押しつけた、あいつですわ」
「えっ。その言葉遣い、ひょっとして……」
「でも、それであなたに奴隷紋を施したのはお父様だし……」
心底申し訳なさそうに、着物の裾をもじもじさせるユーリィに、ネトレールは、なんでもない風に言ってのける。
「ユーリィ。あなたはまだ幼いから知らないかもしれないけれど。私のような魔物と人間は、本来、根本的に相容れない存在同士なんですの。運悪く捕らえたのなら、皮を剥がれて殺されるか、研究・実験の材料になるか。ときには同族を呼び寄せる餌や人質として吊るされたり……だから、奴隷として反抗しないようにしたあと、危険の少ない人間のもとに預けるのは、運のいい方だとも言えますの」
「そんな……」
「今回は、その相手――イキリィが、たまたまドSの変態だっただけ。今ここで生きて、剣聖へ復讐する機会を与えられただけ、私は幸運なんですの」
にこ! と笑って、ネトレールは僕らの方を振り向いた。
「ということで。私――ネトレール=レルラレーレ=リリィローズは、復讐のために。あなた方の旅に同行させていただきますわ♡」
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