第42話 寝取らなかったネトレール

 僕とマイヤは、冒険にでる準備を整えるべく中央ギルドのある聖都に居を構えることにした。

 せっかく始まる新婚生活だ。できれば静かで落ち着ける場所が良いな、なんて物件探しをしていたら……


「まさかあんたの居城のご近所とはね。性剣のギリダ」


「俊閃のギリダだ。勝手に下衆なあだ名を付けるのはやめてもらおうか、銀閃のマイヤ。しかもここは私の居城ではなく、ユリウス様の私有地である。貴様たちが住むという小ぶりな一軒家も、土地の所有者はユリウス様であるということを忘れるなよ」


「別に~? あんたは私たちに大恩があるからまかり間違ってもちょっかいかけてこないでしょ。それに、『愛しい~♡ユリウス様』との性活を邪魔するつもりもないわ。お互い、昔のことは水に流して良き隣人でありましょう」


「そう言ってもらえると助かるな」


 まさかの一級剣聖同士が近所ということで、ここら一帯の治安の良さが爆上がりした瞬間だった。

 ルデレたちにしてみれば、ギリダが口利きをしてくれたおかげで格安で良い物件が手に入ったことは僥倖といえる。まさに、昨日の敵は今日の友状態なわけで。


 ルデレとマイヤはギリダにご近所挨拶を済ませた後、リビングで暖かい紅茶を手にくつろいでいた。


「新居で聖剣の行方を探す傍ら、まずは、悪役を演じてまで僕らを助けてくれたネトレールにお礼がしたいと思っているんだ」


「私もそれは思った。あの子ったら、何も完全に私達の前からいなくなっちゃうことなんてないのに。コーレィの屋敷での出来事を恩に感じていたのはわかるけど、自己犠牲が過ぎるわ。『吸血鬼の涙』を手に入れることができたのも、全てはあの子のあかげなわけでしょう? だったら……」


「人間とか魔族とか関係ない。僕らとネトレールは今でも仲間で、友達だよ」


「うん! ルデレくんならそう言ってくれると思ってた!」


「となると。当てがあるのはドラコが不死族と共に占拠したピラミッポか」


「もしくは、『人類討滅戦』のときに私が待機していたドラコの居城かしらね」


「うん。お兄さんであるドラコの元に身を寄せていると考えるのが妥当だよね」


「あ~! こういうとき、吸血姫リリィ=ローズの力であいつらの気配が追えないのがもどかしい!」


「でも、マイヤはもう人間だ」


 吸血鬼の証である銀糸でなく、麗しい黒に戻った髪をさらりと撫でると、マイヤはぽっと頬を染める。


「ルデレくんってば、タラシ……」


「そんなつもりじゃ――! ただ、マイヤの髪が綺麗だなぁって……」


「そういうところがタラシなのよバカぁ~! ああん、もう、好き!」


 そんなこんなで、ふたりはまずネトレールがいると思われるドラコの元へと足を向けることとなった。


  ◇


 ネトレールの好きな甘い焼き菓子を沢山持って、ドラコの棲む屋敷のベルを鳴らす。

 吸血鬼の生態に合わせて深夜に訪問したのが功を奏したのだろう、僕らの来訪をしると、ドラコが自ら出迎えてくれた。


 盛大なため息と共に。


「はぁ~~~~……何の用だ、母上の香りがしない小娘……」


「露骨に残念がるんじゃないわよ。アレは、私にとっては呪いだったんだから」


「我らにとっては母上の愛だったのだ。それを解呪するなど。なんということをしてくれたのだ……まったく。末っ子のネトレールが懇願しなければ、そっ首斬り落としていたところだぞ」


「やっぱりいるんだ、ネトレール!」


 歓喜の表情で奥を覗き込むと、ネグリジェ姿のネトレールが出て来たところだった。そうして、実家感丸出しであくびをしながら、僕らの手から焼き菓子を奪い去る。


「お久しぶりですわね、義理お兄様と偽お母さま♡」


 相変わらずのその様子に、僕とマイヤはなんだか懐かしくなって、ネトレールに抱き着いてしまったのだった。


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※あとがき

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