最終話 人も魔族もティータイム

「で。何の用ですの? が揃いも揃って」


「ツレないなぁ、ネトレール。マイヤの呪いはキミが解いてくれたようなものなのに」


「あんた、見た目に反してあそこまで義理堅かったのね」


「義理だなんて。私は単に、世にも美しい幻の花だという『吸血鬼の涙』をこの目で見て見たかっただけですわ」


 ぷい、と素直じゃないところが懐かしくて、思わず涙が出そうになる。

 そうして僕らは、お互いの左の薬指に煌めく指輪を見せた。


 牙の細工のある銀細工。

 僕らを結び付けたのが吸血鬼であるという思い出の意匠を施した、結婚指輪だ。


「僕たち、結婚することにしたんだ」


「まぁ! わざわざそれを自慢しに!?」


「それでね、式をあげる予定はまだ無いんだけど、一番の友達であるネトレールにどうしても報告したくって。本当にありがとう、ネトレール。旅の道中色んなことがあったけれど、キミのおかげで沢山救われた。ドラコさんにも」


「別に私は、母上のためであって、貴様たちのためでは……」


「ふふっ! リリィ=ローズの家族って、揃いも揃って素直じゃないのね!」


「まぁ、元母上――マイヤには『人類討滅戦』の折には世話になったしな。吸血鬼は恩義を忘れぬ気高き生き物だ。立ち話もなんだし、屋敷に招くとしようか。どうぞ」


 ――この、『どうぞ』というのも懐かしい。


 吸血鬼は、招かれないと個人の屋敷には立ち入れないから。

 これはドラコの癖なんだろう。

 昔はよく、宿屋に入るのにマイヤとネトレールだけ弾かれて、その度に僕が「どうぞ」と招いたっけ。


 ――長かったような、短かったような、吸血鬼たちとの旅路。


 それは、マイヤの解呪によって終わりを迎えてしまった。


 でも、旅の途中で紡いだ絆は失われない。


 お茶とお菓子と昔話と。

 花の咲くテーブルで人も魔族も関係なく語らう姿が、いつかこの世界全体に訪れたらいいなと思った。


 それが僕の、今の……夢だ。


  ◇


 結局その日は、ドラコの屋敷に泊まることとなった僕たち。

 同じベッドで横に並びながら、僕はマイヤに問いかける。


「ねぇマイヤ。僕、ずっと思っていたんだけれど。どうしてマイヤは、そんなに強いの?」


 問いかけに、マイヤは。


「ふふっ。さぁ、なんででしょう?」


 甘く優しく、指先を絡める。


「それは私が、ヤンデレ侍だからかも……ね♡」


「ヤンデレ? って、何?」


「内緒♡」


 首をかしげるルデレと、マイヤの指には、銀色の、揃いの指輪が閃いていた。



 ――ヤンデレ侍、好きにて候。


 たとえ人と魔族が大戦の果てに手を取る日が来て、人々の価値観が大きく揺らぐ日が来るのだとしても。

 この想いだけは、決して変わることはないのだろう。


                               (第一部、完)



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※こんばんわ。ここまで読んでくださった方々、いつも応援してくださる方々、本当にありがとうございました!

 これにてこのお話は一旦終了です。


 連載開始からずいぶんと時間が経ってしまいましたが、なんとか書ききることができました。これもひとえに、応援やコメントを下さった皆様のおかげです。本当にありがとうございます!


 もしよろしければ、レビューや☆評価、感想をいただけるととても励みになります!

(只今コンテストに参加中のため、是非ともよろしくお願いいたします!星投げだけでも嬉しいです!)


 頂いたレビューは次回作以降にも活かして参りますので、是非よろしくお願いします!


 最後に。最近更新している新作の宣伝です。


①『中二病を拗らせていたら、吸血プレイ目的の女に囲まれて青春ラブコメが始まっていた件』(ラブコメ)

https://kakuyomu.jp/works/16817330660921491642

部活モノの破天荒型微ハーレムラブコメです。

「はがない」好きな方に刺さればいいなぁと思っていたりいなかったり……


②『推しが推しを殺ス世界で。僕だけが唯一『推し』になれる』(ラブコメ×デスゲーム)

推しのコスプレが趣味の主人公が、チートストーキング行為の数々でヒロインをデスゲームから救うお話です!

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③『戦滅兵器コアラ02~ディストピアにもラブコメの花は咲く~』(ラブコメ×SF)

人類がコアラになって戦争がなくなった世界で。謎の襲来者カグヤと戦うパイロットたち少年少女の愛を巡る群像劇です!

https://kakuyomu.jp/works/16817330652409617949


私事にはなりますが、コンテストに参加中の為、少しでも多くの方に期間中に読んでいただけたらなと思い、不適切かなとは思いつつも、宣伝させていただきました。


星やレビューはもちろんうれしいですが、どの作品もかなり毛色の異なる作品のため、率直にどうだったか、という感想が気になって……

もしご興味ある方は、是非ともよろしくお願いいたします!


 長くなりましたが、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!

 今後とも是非、よろしくお願いします!

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ヤンデレ侍、好きにて候 南川 佐久 @saku-higashinimori

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