ヤンデレ侍、好きにて候
南川 佐久
第1話 ヤンデレ侍、好きにて候
序
薄っすらと宵闇に浮かぶ月を背に。
僕は幼馴染に抱き着かれていた。
目の前に浮かぶ、蝙蝠のような皮膜の翼。
絹糸のような銀糸をなびかせ、彼女は、僕に覆いかぶさっていた。
「ルデレくん……これで、私の全てはあなたのものよ……」
紅をさしたように、唇に僕の血を滴らせながら、緋色の着物をふわりと揺らして、甘えるように頬と身体をすり寄せる幼馴染。
豊満な胸の感触に動揺しながらも、僕は、その名を呼んだ。
「マイヤ……」
いったい、どうしたの?
きみの髪は、艶めくような黒で。瞳だって、そんな、魔族みたいに真っ赤じゃなかったじゃないか。
問いかけに、幼馴染は、さも嬉しそうに恍惚とした笑みを浮かべて、答えた。
「私……もう、ルデレくんなしでは生きられないの」
◆ ――数日前。
月を背に、和装の少女が艶やかな黒髪を靡かせる。
彼女が手にした刀を振るうと、ひとり、またひとりと、小路を千鳥足でふらついていた男たちが首を垂れるように地に伏した。
その中でも、ひと際高慢で鼻持ちならない感じの男――冒険者パーティ『
「貴様……何者だ……」
ちらり、と伺うと、鼻の先には緋色の鼻緒の下駄と爪先。見上げた先には、少女の着物の裾が揺れていた。
動きやすさ重視なのか、和装なのにかなりのミニ丈。あと少しでパンツが見えそうだ。つか、下から見てもわかるが乳がでけぇ。
さらし巻いてる意味あるのか、それは?
なんて、この場で口にしたら多分殺される。
なぜ急に、このような美少女に襲撃され、命を狙われるハメになったのか。ノッポには微塵も覚えがない。
今日はただ、依頼で行ったダンジョンが思いのほかチョロくって、報酬が割と豪華で。気分がよくなったので、パーティの仲間と少しばかりハメを外して酒場で飲んでいただけだ。
なのに、何故――
ノッポの視線の先、少女の胸元には、鈍色に光る
ひとつひとつが職人の手作り。特注で作られるその精巧な意匠に、思わず息を飲む。
(冠位最上級……剣聖、だと……?)
噂には聞いたことがある。
なんでも、数週間前に、史上最年少の十四歳にして、幻とも謳われるその称号を手にした少女がいるとかいないとか。
それがまた驚くべき美少女で、「天は二物を与える」と、「一度でいいからお目にかかりたいものだ」と、中央ギルド協会から遠く離れたこの廃れた田舎町でも噂になるくらいだった。
それが。そんな少女が、なぜ……俺の命を狙ってる!?
「俺が……何をしたっていうんだ……」
地面の砂に埋もれかけた問いかけに、少女は鈴が鳴るような凛とした声音で答える。
「別に。何も」
(……は??)
「あなたが、ちょっと高慢ちきで鼻持ちならないだけの、世間一般でいう無辜の民だということは知っているわ」
じゃあ、なんで?
訴える視線に、少女は顔色ひとつ変えずに。
「ただ、あなたは……私の逆鱗に触れようとした。それだけのことよ」
そう言って、ノッポの左手に刀を突き刺した。
瞬間、ノッポが声にならない声をあげる。
「こっちにも色々事情があるの。あなたには、ちょっと冒険者業を休業――パーティを解散してもらうわ」
「ふざけっ……! なんの謂れがあって、俺がこんな目に……がぁあっ!」
ぶすり、と躊躇なく加えられた二撃目に、ノッポは再び悲鳴をあげる。
少女は、その場にいた『夢追い人』のメンバー全員が再起不能になったことを確認すると、闇夜に着物を翻す。
立ち去る直前、思い出したように、ノッポの相討ち覚悟の一撃で割られた仮面を拾い上げ、ふたつに割れた狐面を顔につけた。
あんな、身分丸わかりの階級章をつけておいて、今更顔を隠して何になる……
苦し紛れのノッポの苦い視線など眼中にないのか、少女は、煌々と田舎町を照らす月に向かって呟いた。
「ああ、愛しのルデレくん。これでもう、ルデレくんを守るメンバーは誰もいない。今夜限りでパーティは解散。ルデレくんは晴れて無職よ……!」
うっすらと、恐ろしいくらいに綺麗な笑みを浮かべて、何を――
「ふふっ。ルデレくん……これで全部。ぜーんぶ、私のものだね……!」
あははははっ! と笑う女に、ノッポは今一度問いかけた。
「てめぇ……ナニモンだ……」
その問いに、月を背にした美少女は。
「私のことは……そうねぇ。『ヤンデレ侍』とでも、名乗っておこうかしら?」
ヤンデレ侍、好きにて候――
そう。全ては、彼への愛の名のもとに。
(あとがき)
ラブコメ要素強めの異世界ファンタジーです。主人公(ルデレ)は2話から出ます。テーマはヤンデレと、少年の成り上がり。
何はともあれ、話の転換となる【7話】まで読んでくださると嬉しいです!
現在カクヨムコンに参加中!是非とも感想や応援、評価をよろしくお願いいたします!
また、異世界ファンタジーを書くのが久しぶりすぎて感触がいまいちわからないので、感想を、作品ページのレビュー、+ボタン★で教えていただけると嬉しいです!
★ ふつー、イマイチ
★★ まぁまぁ
★★★ おもしろかった、続きが気になる など。
是非よろしくお願いします!
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