第34話 病みが深い剣聖のティータイム

 後日。僕とマイヤの元には一通の書状が届いた。

 それはまさかの、俊閃のギリダからの推薦状だったのだ。


『拝啓、ルデレ=デレニア殿。

 あなたのおかげで僕は自分の一面と向き合い、今ではユリウス様もその手中におさめることに成功しました。ユリウス様は未だにそこそこ抵抗しますが、私は今、幸せの絶頂です。ユリウス様に寵愛を受けていた侍女たちとも和解し、今では皆でユリウス様を愛で、更生させることに心血を注いでいます。

 ユリウス様は私を恐怖するあまり、熱心に研究や仕事をなさるようになり、侍女たちも張り切ってその手伝いに奔走している毎日です。

 家に帰ればユリウス様がいる。誰の目を気にすることなくあの方を愛することができる……私の生活は華のように煌めき、ギルドにおける仕事にも精が出るようになりました。

 つきましては、感謝の気持ちを込めて、貴方を一級薬師に推薦したいと思います。飛び級試験を受けることにはなりますが、貴方ならきっと合格できると信じています。中央ギルド統括本部へお越しの際は、またお目にかかれることを願っています

 敬具。ギリダ=テル=ロミオ』


「ギリダさん、幸せそうでよかったね」


「ふふふっ。やつれたゲスツィアーノの顔が目に浮かぶわ!」


「にしても、ゲスツィアーノってなんだかんだで孤児の皆――侍従の幼女たちには懐かれているみたいだね? ちょっと意外」


「まぁ、下衆野郎だけど命の恩人ではあるんでしょ。何が正義で何が悪かなんて、当事者以外にはわからないものよ。私だって、ほら、魔族なわけだし……」


「でも、マイヤはいい子だよ」


「ルデレくんならそう言ってくれると思った!! 大好き!!」


 ぎゅ~っとルデレにひとしきり抱き着いた後、マイヤは「野暮用がある」と言ってギリダの元を訪れた。

 あの手紙の内容の真偽を確かめるためだ。


(もしその『飛び級試験』が罠で、ルデレくんをハメようってんなら容赦しないわよ、ギリダ……)


 中央ギルド統括本部の執務室を尋ねたが、ギリダは不在だった。

 聖都が平和で雑務処理も無い日は、ギリダは散歩がてらギルド内を散策し、中庭の薔薇に水をやることが多いのだとか。


 ギルド嬢さん達に聞いた情報を頼りに中庭を尋ねると、鼻歌まじりに花に水をくれている貴公子と目が合う。


「おや。銀閃のマイヤ」


「浮かれ切ると殺気が微塵もなくなるもどうかと思うわよ。あんたのそんな姿見たら、他の剣聖が腰を抜かすわ」


「まぁまぁ、今日は仕事もなくて暇なわけだし、いいじゃないか。丁度ギルド嬢さんがお茶を淹れてくれるというのでね、待機がてら薔薇に水やりをしていたんだよ。キミも飲んでいくかい? なぁに、


 くすっ。と意地悪そうに笑うギリダのこんな顔を見れるのも、腹を割って話した自分くらいのものだろう。


 マイヤは案内された中庭のテラスに腰掛け、紅茶をいただく。


「あれからルデレ=デレニアはどうしている?」


「ルデレくんなら、『飛び級試験』の情報を得る為に街の図書館へ行ったところよ。ギルド内でも一級への飛び級試験を受けた奴なんていないし、相当珍しいことだから、対策が立てられなくて苦労してる」


「おや、それは。余計なおせっかいだったかな?」


「まさか。一級からの推薦なんて滅多に得られるものじゃないし、仲のいい私は贔屓になるからって推薦できないから困っていたところだもの。正直、飛び級推薦は渡りに船だったわ。あんたの方はどう? ゲスツィアーノとよろしくやってんの?」


 問いかけに、ギリダは恍惚とした笑みを浮かべて頷いた。


「にしても、驚いたな。私はこう見えて、主への想いをひた隠しにしていたんだ。気付かれたのは初めてだったよ。さすがは剣聖と言うべきか、風を読まれては隠しごともできないな」


「そんなんじゃないわ。あれは単なる、女の勘よ」


 ふふっ、と互いの間にあたたかい薫風が吹き、ふたりの剣聖はその風で会話をする。会話、といっても決してテレパシーなどではなく。なんとなく、互いの考えていることが風でわかるというものだ。


 風で物事の流れを読むと謳われる剣聖。その境地に達した者同士にしかわからない言語で、ふたりはほくそ笑んだ。


「このことは誰にも――内緒にしてくれよ」


「当たり前よ。私、そこまで無粋な女じゃないもの」


 皿に出されたクッキーをひとつまみして、マイヤは紅茶で飲み下す。


「ゲスツィアーノ、改心したんだって?」


「私の日々の奉仕のおかげかな? いやむしろ、主はどうにも私を恐れているようで。縮まったようで縮まらないこの距離がもどかしいよ。何故かな? やはり、豪商主催の夜会へ『久しぶりに女漁りしよう!』と嬉々として出かけようとするのに嫉妬して、数日監禁したのがよくなかったのかな?」


「あんたも、病みが深いわね……」


「ふっ。剣聖なんて、皆そんな者ばかりだろう? ボクらはただ、人より少しばかり、。剣を極めし剣聖は、皆、何かに執心し、それなりに病んでいるものさ」


「それは言えてる」


 ともあれ、ギリダの様子から見るにルデレくんに感謝しているのは本当のことらしい。風も偽りの気配は感じていなかったし、飛び級試験は正々堂々勝負して大丈夫なようだ。


 マイヤはこれを良い報告として持ち帰ろうと、嬉々として宿の扉を開いた。


「ただいまぁ~!」


 するとそこでは、バニーコスプレのネトレールとルデレくんが『祝!一級推薦』だなんて横断幕の横で酒盛りをしていて……


「何やってんよ!? ルデレくんはまだ未成年よ! お酒なんて身体によくないでしょ――!」


「あらぁ? 意外と早いお帰りですのね。ルデレさんってば、騙くらかして一杯飲ませたらこの始末。お酒にはすこぶる弱いみたいですわ~♪」


 ぐでんぐでんにソファで酔っぱらうルデレくん……

 顔を真っ赤にして、呂律も回ってなくて、一級への推薦がよっぽど嬉しかったんだなぁって……う~ん! 可愛い!!


「う〜ん、マイヤぁ……」


 そんな、求めるような声で呼ばれたら、飛び込むしかないじゃない!

 その腕の中に!!


 目にも止まらぬ速さでルデレの懐に潜り込んだマイヤは、こっそりと太腿をルデレの足の間に挟ませる。ぎゅうぎゅうと密着して、普段より体温が高くて声が甘いルデレくんのエッチさときたら……!


(ふぁあぁ……! しゅきぃ……!)


 「マイヤ、ふかふか♪」なんて抱き締められて幸せレベルは最高潮なんだけど……

 残念だわ。勃ってない。


 どうやら、本当に寝ぼけているだけみたい。

 嬉しいけれど、同時にちょっと残念なような……

 だって、これでルデレくんがギンギンだったら、流れでイケたと思うのよ。


 でも、意識の朦朧とした、本人の意思のないままシちゃうほど、私悪い子じゃないの。こう見えて、私、純情ヤンデレ乙女だから。

 もぞ、もぞ、と股を弄っていると、突如としてドアが開かれる。


「追加のテキーラ持ってきましたわよ~!」


 バニーネトレールの騒がしい声に、ルデレくんは弾かれたようにがばっと飛び起きた。


「あれっ、マイヤ!? 僕、なんで抱きしめ……はわわ、ごめんっ! てゆーかマイヤ、着物がはだけすぎだよっ! なんか羽織って! 僕、ちょっと顔を洗って来るね!」


 私は、タイミング最悪なネトレールを睨みつける。


(チッ。この、くそウジ虫お邪魔虫がぁぁ……!)


 あいつさえいなければ、流れでイケたはずなのに……!

 なんだかんだ言ったけれど、やっぱり結局はシたいのよ。私だって、乙女だもの。

 壁に立てかけられた剣聖の証、聖剣――夜ノ羽々斬。

 あんな聖剣よりもね、私は、ルデレくんの夜のエクスカリバーをヌキたいの。


「まぁでも、ルデレくんがお酒を飲むとチョロくなるのはわかったし、そこはグッジョブだわ、ネトレール」


「んふふ♡ 帰ってくるのが早すぎるんですのよ。もう少し遅かったら、私がゆっくりねっとりと、ルデレさんの純潔をいただこうと思っておりましたのに♡」


「……やっぱ殺す」


 私とネトレールは殺し合えない、呪われた仲だけど。

 恋敵としていつか決着はつけなきゃな、と思っているわ。


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※あとがき

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