第29話 エッチな尋問
「まずは彼のお手並み拝見といきましょうか」
冷たく湿った石造りの牢で、ギリダは楽しそうに鎖を繋いでいた。
その片方は壁に固く打ち付けられ、もう片方には華奢な手首。
「剣が無くては剣聖もただの女子……まったく、非力なものですね」
意識を失ったマイヤを眺め、呆れたようにため息を吐く。
「こんな女子のどこがいいのでしょうか。ユリウス様は」
『なんなら私の方が綺麗だ』とでも言い出しそうな眼差しに、捕縛の報を受けてやってきた主が手を叩く。
「おお!
「ユリウス様は、案外ミーハーでいらっしゃる」
「違うわ! 俺は単に、ロリ巨乳な美少女が好きなだけだ!!」
「余計にタチが悪いですね」
やいのと楽しげな会話のせいで、マイヤは目を覚ました。
(どこ? ここ……)
状況から察するに、自分は俊閃のギリダに拉致監禁されているらしい。
とはいえ、奴が最初に接触してきたのはルデレくんだった。
となると、自分はルデレくんをおびき寄せる為の餌……そんなところだろうか。
「してユリウス様、今後はどういたしますか?」
「そうだな。まぁ、奴が来るまではゆっくりとねっとりと、殺さない程度に楽しませてもらおうじゃないか」
(くそっ、変態め。刀は……さすがに没収されてるか……)
マイヤは半ば諦めに似た心地になりつつも、冷静に分析をする。
『俊閃のギリダ』。同じ剣聖として何度か任務に同行したり、御前試合などで手合わせをしたことはある。
若干十七歳にして最強とも名高い、舞台役者顔負けの甘いマスクが特徴的な、誰にでも優しい高潔な騎士。聖都に屋敷を構えている主に仕えているとかで、遠征には滅多に出ず、中央ギルド統括本部の守りを任されている街の人気者だ。
あいつが街中をパトロールすると、女子供が集まってきゃあきゃあと人だかりができるレベルの正義の味方だっていうのに……
となると、隣にいるのはその主の冠位二級魔術師、ユリウス=ゲスツィアーノ=ロリロワール……
引き籠りの研究狂いと名高い奴をこの目で見るのは初めてだ。
下級貴族の出にしては魔術と商才に溢れ、多くの研究を世に残し、若くして実力で二級まで上り詰めたという奇才。
だが、所詮は二級。一級剣聖のギリダよりは格下のはずだ。
(改めて考えると謎だらけね。このふたり、一体なんなの……?)
どうしてギリダのような奴があんなゲスにつかえているのか知らないけれど。こいつらの厄介なところは、一級剣聖と二級術師が組んでいるというその点だ。
研究ばかりしているあのゲスに戦う力があるのかは不明だが、トータル戦力の底が見えない。
思考を巡らせている間に、マイヤはユリウスによって首輪をつけられてしまう。
「逆らうと、ちょ~っとビリっとする首輪だ。大人しくした方が身のためだぞ」
「目的は何?」
「そんなの、コレに決まっているだろうが……!」
ユリウスが楽しげに取り出したのは、得体の知れない棒状の物体だった。
「じゃじゃ~ん! 大人のオモチャ! 生でやるのは調教してからのお楽しみだ♪」
「相変わらず、ゲスなご趣味なことで」
さらりと聞き流しているあたり、ゲスツィアーノが下衆であることは日常茶飯事なようだが……
(え? ちょっと待って。何? あの大人のオモチャってやつ……)
初めて見るが、男性の陰部を彷彿とさせる、きわめていやらしい物体であることだけはわかる。そうして、その使用方法も薄っすらと理解でき――
同時に、ゾッとした。
「ヤダヤダ! ルデレくんのならどれだけ大きくても入るけど、そんな意味のわからないぬるぬるのオモチャなんて無理よぉっ!」
「あははは! いい声で鳴くなぁ! 所詮は年相応の
鎖をじゃらりと鳴らして後ずさるマイヤを肴に、ゲスツィアーノは「どれにしようかな~♪」なんて鼻歌まじりに今日のオモチャを選んでいる。
「決めた!」なんていぼ付きのオモチャを手にしたゲスツィアーノが、マイヤに得体の知れない物体を飲ませる。
強引に、「抵抗するなら口移しでもいいんだぞ?」とかこれ見よがしな脅しをしながら。マイヤは結局その物体を無理矢理に飲まされ、身体が熱くなってきてしまう。
「……ユリウス様。今日は随分と愉しそうですね」
「だって生マイヤだからな。ロリ巨乳好きとしてはこれ以上ない逸材だ。気の強い娘を調教するのもまた乙なもの。前から目を付けていたのだ」
「左様でございますか」
若干表情を曇らせながら、主に聞こえないように舌打ちをするギリダ。
その姿に、まだ彼の中に良心が残っているのではないかと錯覚してしまう。
その僅かな期待に光明がさしたのか、不意にギリダがゲスツィアーノに耳打ちをした。
「……三階の使い魔から伝達です。侍女のリディアが、ユリウス様を恋しがっていると。添い寝を所望なようです」
「ふむ。リディアはまだ六歳……健全なコミュニケーションしかできない歳だ。むぅ、今日はエッチなことがしたい気分だったのに、恋しがられては致し方ない。添い寝してやるか」
手にしたオモチャを放り投げて踵を返す様子に、心の底から安堵する――
のも束の間。
主が去ったのを確認して、そのオモチャを拾い上げたギリダと目が合った。
(こいつ、まさか私のことを狙って――!?)
怯えの隠しきれない眼差しで睨むと、ギリダは盛大な舌打ちと共に蔑むような視線を向ける。
「私にそのような趣味はない。自意識過剰にもほどがあるぞ、銀閃のマイヤ。仮にも窮地を助けてやったのだから、礼の一つでもしたらどうだ?」
「へ――?」
(助けて、くれた……?)
ああ。あの報告は、嘘だったのか。
マイヤは、ギリダに対する認識を悪から微悪に改めた。
あのようにいやらしい尋問をすることに、多少なりとも痛む良心を持ち合わせているらしいと。
「誤解して悪かったわね」
素直でないマイヤの精一杯の礼に、ギリダは淡々と返す。
「言っておくが、今回貴様を助けたのは、決して貴様の為などではないからな」
「あら。あんたひょっとしてツンデレなの?」
「馬鹿は休み休み言え。ここ数日、ユリウス様が研究室に籠り切りでリディアが寂しい思いをしていたのは本当だ。ユリウス様は極度のロリコンで、多くの見目麗しい孤児を拾ってきては嫁候補として侍従にして育てるようなお方だが、屋敷での生活は彼女らにとって憩いとなっているのもまた事実。貴様のように知名度のある小娘に手を出して、足が付いたら困るのだ」
「へぇ……」
拉致監禁をしている時点で限りなくクロなのだが。おおよその事情は察した。
きっとギリダも、その拾われた孤児なのだろう。
それであの忠誠か。
「とはいえ、人払いもできたことだし、単刀直入に尋ねよう。貴様の知っている、ルデレ=デレニアについての情報を吐け。奴は、吸血鬼と繋がっている……そうだろう? 主のように下衆な尋問をする気はないが、ここには無数の拷問器具もある。吐かなければ痛い思いをするのは貴様だぞ、銀閃のマイヤ」
「!!」
(目的は、それか……!)
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