第36話 秘めた想い

「ねぇマイヤ! 今すぐ僕と一緒に来て!!」


「えっ。ふえっ? ルデレくん? あの、ちょっと、手……! そんなぎゅ~って繋がれたら、濡れちゃ……」


「いいことを思いついたんだ!」


「え!? イイコトをしたいだなんて、そんな、急に……!」


「……マイヤ? 僕の話聞いてる?」


 絶妙に何か勘違いをしているマイヤを引き連れて、僕は街の図書館を目指した。

 そうして、とある妖精についての本を開く。


 マイヤは、おとぎ話調で書かれたその図鑑を興味深そうに眺め、僕の顔を伺っている。


「何? これ……妖精? フタゴボシ……」


「うん。ここから二日くらい行った泉の森に棲むという特殊魔法生物――妖精さ。ふたり一組の番で行動するのが特徴的なんだ。とても希少で、好戦的で、コンビネーションによる攻撃力を持ち合わせた、気性の荒い危険なモンスター」


「そんな危ないモンスターを、どうしようっていうの?」


「捕まえる」


「!」


「そうして、羽から得られる鱗粉を煎じて薬にするんだ」


「妖精の粉? でも、一般的な妖精の粉っていうのは、一時的に空を飛べるようになるくらいのものでしょう? それでどうやって――」


 マイヤの問いはもっともだ。

 だがこのフタゴボシの鱗粉、僕の見立てではただの鱗粉とはわけが違う。


「フタゴボシは、一般的に両性具有と言われていて、番になると両者の性別が変わる不思議な生き物なんだ。そうして、あとから決まった性別に応じて羽根の色も変わる。オスなら蒼、メスなら赤といった具合にね」


 羽の色が変わるのは、当然鱗粉の性質が異なるからだ。

 一般的に空を飛ぶために捕らえられる妖精、ピクシーは、薄黄色の羽根をしており、妖精の粉も黄色。


 僕が欲しいのは、この、フタゴボシの『赤と蒼の鱗粉』だ。


 さっきも言ったように、フタゴボシは好戦的で、コンビネーションによる攻撃を得意とする、気性の荒いモンスター。

 彼らが番で行動するのは、単に戦闘力を高めるためではない。

 フタゴボシは、オスとメスが、能力値の高い方とシンクロして攻撃を行うのだ。


 つまり、接近戦時はオスの能力をベースに、2匹ともが威力の高い突進攻撃や引っ掻きを繰り出すこともあれば、遠方からメスの能力をベースに高等魔法で攻撃してくることもある。

 その強さゆえに乱獲に失敗している、希少な妖精。


 こいつらを捕まえて鱗粉から薬を調合すれば、超シンクロ剤のようなものが手に入ると僕はふんでいる。


 つまり……僕がマイヤの能力をトレースすることが可能になるかもしれないんだ!


 ◇


 かくして僕とマイヤはフタゴボシが棲むという泉の森を目指して出発をした。

 ネトレールは街で野暮用があるとかいうのでお留守番。

 僕らが不在の間、変な人の血を吸って、勝手に眷属にしてなければいいけど……


 街から二日進んだ先の森で野宿と寝ずの番を繰り返し、僕らはようやくお目当てのフタゴボシを見つける。


「マイヤ! メスがそっちに行ったよ、捕まえて!」


「了解! みねうち、だったわね……!」


「よし、オスの魔力が弱まった! 今ならこの睡眠薬で――!」


 今までひっそりと練習してきたなけなしの弓が腕をかすり、オスを眠らせることにも成功。僕らは無事にフタゴボシを捕まえた。


 あとは、宿屋に帰って粉を頂戴、調合するだけだ。


 でも、その前に……

 僕はマイヤの休む木陰の隣に腰かけて、肩に頭を乗せて息を吐いた。


 いつもはマイヤが僕に甘えてくるのだけれど、たまには僕がこうしてもいいんじゃないかなって、甘えたくなって。

 でも、その甘えを当然のことのように思うのも何かが違う気がして。

 自然と言葉が浮かんでくる。


「マイヤ、協力してくれてありがとう」


「え?」


「いや、最近、マイヤにきちんとお礼が言えてなかったなぁと思ってね。マイヤはさ、いつだって僕の為に戦って、協力してくれるのに……」


「そんなことないわ! 私が昼夜を問わずに活動できるのはルデレくんが血を与えてくれるからで、元気を与えてくれるからで……!」


「でも、こんな辺鄙なところまでついてきてくれるのは、やっぱりマイヤだけだよ」


 昔から、僕は友達があまりいなくて。

 それこそマイヤくらいしかいなかった気がする。


 そんなマイヤがどんどん強くなって、剣聖の人に見出されて修行へ旅立ってしまったときは寂しかった。

 そうしていつしか、僕らの距離は離れていって。


 でも、そんなマイヤが何の因果かクエストの手伝いをさせてくれて、一時的にパーティのようなものが組めて、足手纏いにしかならないとはわかっていても、嬉しかった。


 だから今、こうして、ふたりで息を荒げて一休みしているのがとても嬉しくて。

 共同作業と呼べるかわからないけれど、一緒に戦うことができて、一緒に汗をかいて。

 それがなんだか嬉しいんだよ。


「マイヤ、ありがとう。僕の友達でいてくれて」


「!」


 その言葉に、マイヤは照れ照れとしているけれど。本当は、僕だって、マイヤに胸を張って「大好きだ」って言いたいんだ。

 『友達』なんかじゃなくて、本当は恋人になりたい。


 でもね、昔から心に秘めていたことがある。


 もし、マイヤと同じ一級になれたなら、そのときこそ、この気持ちを伝えてもいいんじゃないのかなって。


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※あとがき

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