第13話 違うということ

やっぱりだめだ……


学校から帰って来て夜になると外でミーを感じる練習をしてみた。

弱弱しい月明かりに照らされながら目を閉じて自分の中のミーを何度も感じようと頑張った。

全くミーが分からない。


このままじゃ、明日の魔法の授業もみんなについていくことはできなさそう。


もう1時間だけ頑張ってみた。


やっぱり駄目だった。





結局2時間ほど外で練習してみたが全く進歩しなかった。


寒くなってきてお家に入ると、カイルがコーヒーを飲みながら分厚い本を読んでいた。

他のみんなはそれぞれの部屋で眠りについているようだった。


「こんな遅くまでどこ行ってたの?」

「ちょっと散歩に行ってました。もっとこの土地のこと知りたくて」

「この辺りは野生動物が時々出るから気を付けてね。それに夜は少し冷え込むから風邪ひかないようにね。」

「カイルさんはこの時間まで何を?」

「僕は病気の勉強をしてるだけだよ。早く一人前の医者になって村のみんなを助けたいからね。それより、明日も学校でしょ早く寝ないと。おやすみ!」

「おやすみなさい」






翌朝、少し畑仕事を手伝ってから学校へ行った。


そして学校の魔法の授業、予想通り何もできなかった。

できないのが苦しいというより、みんなと違うということが苦しかった。


みんなの前では冷静を装っていたが、ルミには私が悩んでいることを見抜かれているようだった。


「めぐみちゃん!よかったら放課後一緒に練習しない?」

「いいの?」

「もちろん!たくさん練習してクラスで一番になろう!」

「うん、ありがとう」


こうして放課後練習が始まった。


「初めは胸の中にあるミーを左肩まで流す練習をしたらいいよ。お兄ちゃんから教えてもらったんだけど、私はこの練習でものを浮かせられるまでミーの量を上げられたよ!」

「分かった、やってみる!」

ミーの存在すらわからない私にはそんなことできるわけがない。

30分ほど練習に付き合ってくれたが全くの進歩がなかった。


でも、私にはミーが分からないとルミに打ち明ける勇気がなかった。

また前の世界みたいに、不思議なものを見るような目でみられそうで怖かった。

我ながら、気にかけてくれたルミには申し訳ないことをしていると思う。


「明日も、一緒に練習しよう!」

「ごめん、明日は早く帰らないといけないから無理そう……」

「そっか、そうだよね、今度また一緒に練習しよう!」







ここから2週間ほど、一人で夜練習するという生活を続けていた。

時が立てば立つほど、みんなみたいにシイム生まれではないからいつまでも魔法が使えないのではないかという不安が大きくなっていく。

結局ここまでミーの存在すら認識することはできなかった。


もし、今日ミーを感じられなかったら、魔法のことはいったんあきらめよう。


そう思っていつもの練習場所に向かう。

今日は満月、いつもより強い月明かりに照らされながら目を閉じて集中する。


どれくらい集中したのだろうか、やっぱり全くミーを感じられない。


すると、すぐ後ろで優しい声が響く。

「ミーを胸の中じゃなくて、頭の中で感じてみて」

その後、耳が温かい手でふさがれる。


言われたとおりに頭に集中してみる。

しばらくすると、頭の中に青い温かい光のようなものを感じた。

なぜかわからないけど、これがミーだと直感した。


すると、耳から手が離れ再びカイルの声が聞こえる。

「そのミーを首、右肩、右肘、右手の順に流して」

そしてまた耳がふさがれる。


再び意識をミーに集中させる。

頭から首へ、右肩へ、右肘へ、そして右手へ。

時間をかけてゆっくりと送っていく。

右の掌が温かくなっていくのを感じる。


今なら石を浮かせられる気がした。

目を開けて目の前の石にミーを伝わらせる。

そして、そのミーを上に押しやる。


気が付くと石が自分の腰の高さまで上がっていた。

でも数秒で石は地面にたたきつけられた。


もう一度と思って再び頭に集中したがミーはほとんど残っていなかった。


「おめでとう!メグミちゃん、初の魔法だね。」


今起きたことが現実か夢かわからないまま後ろを振り向くとカイルが立っている。


「あ、ありがとうございます!」


きっと今、私はとてつもない笑顔になっている。

それを見て満足そうな笑みを浮かべるカイル。


「でもなんで、私のミーはみんなと違って頭の中にあって右手からでるんでしょうか」

「多分それは、メグミちゃんがムンヤだからだと思うよ。最近読んだ本にムンヤのミーは脳にあると思われるって書いてあった。きっとメグミちゃんがミーを感じられなくて苦戦していたのはそのせいなんだと思うよ。」

「ミーが分からないの、ばれてたんですね……」

カイルは笑いながら「毎晩、外で目を閉じて集中してるからきっとそうなんだろうなって、よく頑張ったね。」

照れくさくなって目を下に伏せる。

「あと、ムンヤのミーは右手から出るっていうのは、ギルがそうだから何となくそうなのかなって思っただけだよ。あと、ここからは僕の予想なんだけど、ムンヤはキートの世界から生まれるからシイムの人間よりもおそらく脳が発達してる。特に、左脳がね。左脳は体の右半身を司るから、おそらくミーでも同じことが言えるんだと思う。」

「もっと早く教えてほしかったです。」

カイルの顔がまじめな顔から笑顔に変わる。

「ごめんごめん!もし自分で気づけたらすごいなーって思ってた!」

「……」

「きっと、メグミちゃんは他のみんなと同じようにって意識が強いんだね。人と違うっていうのは悪いことばっかりじゃないと思うけどな。」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る