第33話 事実

「なんで、泣いてるの?」

麻美のすすり泣く音だけが響く。


「ごめんね、ちょっと嬉しくって。あの時独りぼっちだっためぐみちゃんに声かけたことは間違えじゃなかったんだなって」

「そんなわけないよ!」


しばらくの沈黙


電話を掛けたときから気になっていた。電話のときも今も本来なら学校に行っているはずの時間。もしかして、麻美は学校に行っていないのだろうかというちょっとした気がかり。


「……あのさ、何かあったの?」

「何でもないよ! めぐみちゃんが元気そうで嬉しかっただけだよ!」


ウルウルした目を細めてにこやかに笑う麻美はどこか余裕がなさそうに感じた。

……学校のことは言えないよね。




店の中で大きな足音が響き、私たちの席にどんどん近づいてくる。


つばの広い帽子をかぶった背の高い女の人が麻美の腕をつかみ、大声をあげる。

「麻美!何してるの!こいつには会うなって言ったわよね?」


「お母さん……なんでここに」

「仕事の外回りで歩いてたら、この店の中であなたがこいつと話しているのが見えたからよ!こいつのせいでこれまでどんな思いをしてきたか忘れたの?」

「お母さん、その話は……」


「……あの、すみません。勝手に麻美さんと会ってしまって」


「チッ、お前、自分が何をしたのか何にも分かってないんだな」

「お母さん、待って!」

「お前はこの子の学校生活を台無しにしたんだよ!この子は、小学校のときにお前と一緒にいたことでいじめられた。化け物の友達は化け物だって!中学生のいじめはね、あんたが受けてきた小学生のいじめとは違ってもっと悪質で暴力的だった。そのせいでこの子はそれから学校に行けなくなった。お前は、この子の人生を壊した最低な化け物だ。何が『すみません』だ、お前には謝る資格もこの子と会う資格もない。これから誰にも迷惑かけないように、一生笑わず一人で苦しんでろ」

「お母さん、待ってよ、私はめぐみちゃんと友達になったこと何も後悔してないから」

「子供のあんたに何が分かる。あんたのために私は言ってやってんだ」


思考がまとまらず呼吸をするので一生懸命だった。

店内のざわめきも聞こえないほどだった。


「……すみませ――」

バチン!!

無意識に謝りかけたとき頬の痛みとともに大きな音が響き渡った。



それからの記憶はほとんどない。

うっすらと覚えているのは、麻美の母親が麻美の腕を引いて店を出るシルエットのみ。その時、麻美がどんな表情をしていたのかは全く覚えていない。麻美を見るのが怖かった。


気が付くとテーブルの上に2000円おかれていた。

店員に同情を含みながらも恐怖を感じるような顔で見られながら、その2000円でお会計を済ませて店を出た。

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