第34話 結局のところ

気づいたら家のベットで横たわっていた。

一階からは母さんが夕ご飯ができたと呼ぶ声が聞こえる。


結局のところ、この世界では私は人を不幸にすることしかできないようだ。

母さんも私が生まれてこなければ、きっと離婚することもなく平穏な日々を何不自由なく過ごすことができたのだろう。


生まれて来てしまってごめんなさ―――

いや、謝ることで許してもらおうとすること自体がきっと私にはあってはならないことだから、謝ることすら許されないだろう。


私がこの世界でやるべきことは、もう誰にも迷惑をかけないようにひっそりと生きること。

もちろん母さんに迷惑をかけないように学校にもちゃんと行く。

シイムの世界を自分の居場所にできるように、魔法と医学の勉強をしっかりやろう。


この世界に私がいたらみんな苦労する。

私に手を差し伸べてくれた人が不幸になる。

カイルの言う通りきっとこのキートの世界にも優しさはきっとある。

でもそれを上回るだけの悪意があって、私がいるとその悪意が明確に現れて他人に向けられるんだと思う。

麻美ちゃん、本当にごめんね。もう連絡なんかしないから。もう麻美ちゃんの人生を壊してしまったことは取り返しがつかないから。せめて、もうだれとも関わらないで生きるから。

だから誰にも心配をかけないように、誰の目にもとまらぬように。




「めぐみ!冷めちゃうよ!」

「はーい!今行く!」


重たい体をベットから引き離し、何も悟られないように階段を下りて母さんのもとへ急ぐ。


今日の母さんはいつもよりよく話す。

「最近は給料がちょっと上がったんだ。だから、今度…」

「お隣の家のボンちゃんがね…」

「給料が上がったのはいいけど野菜がどんどん高くなってるのよね…」

仕事のこと、ご近所の犬のこと、最近物価が上がっていること。

特に大した話ではないがたくさん話す。


母さんがたくさん話すのは、決まって私が元気なふりをしているとき。

昔からいじめられてるのを隠すために笑顔を作っているときには、いつもたくさん話しかけてきた。


やっぱり母さんはすごいな。

気づいちゃうんだね。

ごめんね、勘違いってことにさせてもらうよ。

母さんにはこれからの人生は幸せに過ごしてほしい。

私はあと2年で消えるから。






それからは本当に何事もなく、目立つこともない、平穏な日々を過ごした。

ただただひたすらにシイムの世界のことだけを思って。

向こうに行ったら成長した魔法をカイルに診てもらおう。

そしてみんなの役に立てるように医学の勉強も頑張ろう。

とだけ考えてやり過ごしてきた。


そして、明日、1年間待ち続けた7月16日。

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