第35話 いい朝

目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。

いつもなら目覚まし時計が鳴っても起き上がるのに時間がかかるくらいだが、今日は体が軽い。


母さんが一回で朝ごはんを作っている音がする。


現在午前5時30分、カイルとの待ち合わせは午前9時。

まだ3時間以上ある。


またこの日に戻ってくるのだから学校は遅刻という扱いでもいいのだが……

今回も仮病を使って学校を休もう。

もう少ししたら、頭が痛いと言って母さんに学校に電話してもらおう。


なんだかんだでこの一年間は割とまじめに学校に行っていた。

行きたいと思ったことはなかったけど、母さんに心配をかけるよりは全然ましだった。



シイムの世界に行ったら、

魔法の練習の成果をカイルにもっと見てもらおう。

学校のみんなと早く魔法の勉強したいな。

カイルとギルのお仕事もっと見たい。


ベッドの上でシイムの世界でのことを想像していたら、気づくともう7時になっていた。

「めぐみー、起きてる?」


ゆっくり階段を下りていくと、母さんはもう仕事に出かけるようだった。


「ごめん、母さん。今日、頭痛いから学校休んでもいい?」

「あら?大丈夫?あったかくして寝てなさいね……?」


私の顔を見て母さんは何を思ったのだろう。

何か含みのある言い方のような気がした。

さすが、母親というものは感がいい。


「うん。ありがとう。行ってらっしゃい。」

「いってきます」


母さんの朝食を食べながら、しばらく母さんの料理を食べることはないのかと思い出す。






久しぶりにカイルや家族のみんなに会えることがうれしくて、ちょっとだけいつもよりおしゃれして、スカートをはいてみたり……

シイムの世界に行く前に着替えるからあんまり関係ないんだけど。


家でじっと待っていることができず、早めに家を出ることにした。


少し早く出過ぎたから少し遠回りしていこう。

いつもよりだいぶ軽い足を動かしながら、テンポよく歩いていく。


アパートの並ぶ街の中を歩いていると、見覚えのある影が見えた。

茶色のローブを着た背の高い男性がとある一軒のアパートに目線をやって止まっていた。

走って駆け寄りたかったが、変な空気を感じていかないほうがいいとそんな気がした。

カイルの目線の先には、40代ぐらいの女性が周りのアパートに比べてお世辞にもきれいとは言えないアパートのベランダで煙草を吸っていた。

不健康そうなやせ型の女性で、疲れ切った顔をしていた。

カイルの表情はフードに隠れて見えなかったが、前に会った時よりも少しだけ幼く見えた。


カイルに気づかれないようにUターンして集合場所に向かった。



私がついてしばらくしてから、カイルはまた少しだけ遅刻して到着した。

1年前と変わらない余裕のあるそれでいていたずらっぽい笑顔で歩いてきた。

「ごめんね、またちょっと遅れちゃった!ひさしぶりだね」

「お久しぶりです!今年もよろしくお願いします!」


記憶の中と同じカイルに少しだけほっとしていた。




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