ただいま
第36話 ただいま
前回と同じようにキートの世界の服からシイムの世界の服に着替えて、扉をくぐった。
屋台のにおいと土のにおいが混ざり合う懐かしいにおいがした。ほっとするにおい。
「おかえり」
「ただいま」
やっと戻ってこれたんだ。やっぱり私はこの世界で暮らしたい。普通になれるこの世界なら私のせいで人の悪意が表に出ることはない。
「よー!カイルにメグミちゃん!あれからもう1年経ったんだな」
まんずう屋のダンがこちらに気づいて手を振っている。
「ああ、一年は結構早いね」
「またこの世界楽しんできな!」
「はい!ありがとうございます!」
笑みがこぼれる。そんな私をみてカイルは一瞬だけ悲しそうな目をした気がした。
「マンズウ2つ頂戴!」
「はいよ!出来立て入れておくね」
「ありがとう!」
1年前とおなじようにカイルの住む村へと歩く。
まんずうを食べながらゆっくりと。
「キートの世界で何かあった?」
「……変わらずって感じです……」
「まあ、俺たちにとっては生きにくい世界ではあるよね」
「……私はこの世界で生きていきたいです」
「……そう言ってくれてうれしいよ。でも、まだ決める時間じゃないからもっとしっかり考えな」
「……あの、さっき…」
「ん?」
「……すみません。何でもないです」
カイルが見ていた女の人が誰か気になって聞こうとしたけど聞けなかった。
この人もきっと向こうの世界でいろいろあったのだろう。
私が軽々しく聞いてはいい話ではない。
それから、サヤが前よりも元気な女の子になったこと、リドが少し人見知りを克服してきたこと、今年は野菜の育ちがいいこと、たわいのない話をしていたら一年ぶりの家に到着した。
家の扉を開けるとサヤがすごい勢いで抱き着いてきた。
「メグミお姉ちゃんおかえり!!!」
びっくりしていると家族のみんなも「おかえり」と笑顔で迎えてくれた。
「ただいま」
少し照れくさいけど、家族として迎えてくれていることがとてもうれしい。
またこの人たちと一緒に暮らせる!
到着した日は休んでていいと言われたが、それもそれで気持ち悪い感じがしたので畑仕事を手伝うことにした。
明日からはまた学校で魔法の練習が思う存分できることがうれしかった。
そして、夜になると今日もまた魔法の自主練を始める。
シートの世界での練習はばれないようにするのが大変だったけど、なんだかんだで手で持てる重さのものなら4つ同時に浮かせることができるようになった。
精神を整えてミーを石に流す。4つの石にミーを均等に流していくことで、安定した浮遊が可能になった。
次は5つ目行けるかな?
そんなことを考えていると後ろから声がした。
「おー!成長したね」
びっくりして石をドーンと下に落としてしまった。
「結構練習してきたんだね」
「はい、時々見つからないように練習してました」
「ときどきね……」
本当は毎日のように練習してたが、正直に頑張りましたっていうのが少し恥ずかしかった。
カイルも何となくそのことに気づいた様子。
褒められてカイルに背中を向けながら少しだけ口角が上がってしまう。
カイルは後ろの方で練習を見守ってくれているけど、後ろからの視線を感じながらだとうまくミーを集中して流せない。
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